血液・凝固系分野|先天性顆粒放出異常症(平成23年度)

せんてんせいかりゅうほうしゅついじょうしょう
研究班名簿 一覧へ戻る

1. 概要

細胞傷害性Tリンパ球(CTL)や NK 細胞の顆粒放出の異常によりさまざまな臨床所見を呈する乳幼児の疾患で、家族性血球貪食性リンパ組織球症、Chediak-Higashi 症候群、Griscelli 症候群、Hermansky-Pudlak 症候群が含まれる。またX-linked lymphoproliferative disease は顆粒放出を誘導するT細胞のシグナル伝達異常による疾患である。多くは劇的な経過をたどり造血幹細胞移植なしでは致死的である。また長期生存例でも重篤な合併症を併発する。しかし家族性血球貪食性リンパ組織球症以外の先天性顆粒放出異常症の日本における実態とその診断法は確立されていない。したがって本疾患の病態解明と診断法確立は、小児医療の発展につながる。

2. 疫学

年間20例程度で、内訳は家族性血球貪食性リンパ組織球症15例、Chediak-Higashi 症候群2例、X-linked lymphoproliferative disease 3例で、Griscelli 症候群と Hermansky-Pudlak 症候群は報告例がない。

3. 原因

原因はリンパ球のシグナル伝達および分泌顆粒の放出に関わる遺伝子の異常による標的細胞の細胞死誘導障害である。その結果、高サイトカイン血症とリンパ球機能異常によるさまざまな臨床症状を呈する。

4. 症状

一部の症例では白皮症などの先天異常を合併するほか、ウイルス感染の合併による発熱などの感染症状、肝脾腫、肝機能障害、高サイトカイン血症、血球貪食、など多彩な症状を呈する。しかしこれらの症状は非特異的症状でありしばしば再燃を繰り返す。また重症のウイルス感染症、細菌・真菌感染症、免疫不全疾患、造血機能障害などと区別が難しい上、致死的な経過をたどることが多い。長期生存例では自己炎症性疾患や中枢神経合併症などの合併が報告されている。

5. 合併症

肝機能障害のほか、重症例では肝不全、凝固異常、電解質異常などを合併する。また異常リンパ球やマクロファージの増殖、活性化により、肺浸潤(呼吸障害)、中枢神経浸潤(けいれん、意識障害)、消化器浸潤(難治性下痢)などをきたし、最終的には多臓器不全となる。ほとんどの症例で造血幹細胞移植が必要であるため、移植による合併症として GVHD や肺障害の他、成長障害や内分泌障害などの晩期合併症がおこることが多い。またChediak-Higashi 症候群や X-linked lymphoproliferative disease は悪性腫瘍を合併しやすい。

6. 治療法

治療法は確立されたものはないが、重症例ではまずγグロブリン療法、血漿交換を行い、さらに抗サイトカイン療法としてステロイドや免疫抑制剤の使用を行い症状の沈静化を図る。一方、軽症・中等症ではステロイドや免疫抑制剤のみで寛解することが多い。しかしほとんどの症例では何らかの遺伝子異常が関与しており、早期の造血幹細胞移植が必要となる。造血幹細胞移植は骨髄、臍帯血ともに有効であり、近年は骨髄非破壊的前処置が定着しつつある。

7. 研究班

先天性顆粒放出異常症の病態解明と診断法の確立