消化器系疾患分野|原因不明消化管出血(平成23年度)

げんいんふめいしょうかかんしゅっけつ
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1. 概要

原因不明消化管出血は上部、下部消化管内視鏡検査では原因が特定されず、カプセル内視鏡、小腸内視鏡検査によっても出血例の約半数で出血源は特定されず再出血を繰り返す例が多い。診断に至る症例では小腸潰瘍、小腸びらん、血管異形性、小腸腫瘍が多く、もっとも多い小腸潰瘍/びらんは組織学的検査によっても非特異的で、病態が明らかではない症例が多い。小腸潰瘍と診断される原因不明消化管出血例でしばしば非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)服用者が見い出されるため、これら症例の一部はNSAID起因性出血性小腸潰瘍の可能性が想定されている。 しかし、原因不明消化管出血の主たる原因となっている小腸潰瘍/びらんの多くが病態不明のままである。

2. 疫学

全消化管出血の約5%を占めるが、今日では多くが小腸出血であると考えられている。原因不明消化管出血症例の全国調査やNSAID服用に伴う小腸潰瘍有病率はもとより、小腸出血リスクを検討した疫学研究が全く行われていないため、疫学データがない。

3. 原因

原因不明消化管出血は小腸潰瘍/びらん、血管異形性を主とした血管性病変、小腸腫瘍からなる症候群であり、一つの原因からなる疾患ではない。多くの小腸潰瘍の成因は不明である。一部の小腸潰瘍、びらんについてはNSAID服用が原因と考えられている。

4. 症状

タール便、黒褐色便、血便と貧血が主症状である。出血は1)進行中の顕性出血、2)以前に認めた顕性出血、3)持続性潜血に分ける場合が多く、進行中の顕性出血に対しては緊急検査および治療が必要である。貧血は抹消血ヘモグロビン値が5g/dl前後に低下する症例がしばしば観察される。 小腸腫瘍が原因である場合時に狭窄症状を伴う。 このように出血をきたす原因疾患に伴う症状を認める場合と出血及び貧血しか認めない場合がある。

5. 合併症

多くの原因不明消化管出血では血圧低下や貧血を認めるが合併症は比較的少ない。しかし、最も多い合併症としては、小腸潰瘍の瘢痕による小腸膜用狭窄があげられる。比較的稀であるが小腸潰瘍穿孔は重篤な合併症と言える。

6. 治療法

小腸潰瘍/びらんからの出血に対してはダブルバルーン小腸内視鏡を用いた焼灼療法やクリッピングを行う。血管異形性病変、小腸デュラフォイ潰瘍からの出血に対してはクリッピングなどの内視鏡治療を行う。動静脈奇形、静脈瘤の出血に対して血管カテーテルによるインターベンションが行われる。潰瘍やびらんに対する確立した治療法はない。

7. 研究班

原因不明消化管出血のリスク要因探索と治療指針作成のための疫学研究班