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慢性炎症性脱髄性多発神経炎 まんせいえんしょうせいだつずいせいたはつしんけいえん(公費対象)

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1. 慢性炎症性脱髄性多発神経炎とは

慢性炎症性脱髄性多発神経炎(chronic inflammatory demyelinating polyneuropathy: CIDP)とは、2ヶ月以上にわたって進行性または再燃性の左右対称性の四肢の運動・感覚性障害を示す末梢神経の疾患(神経炎)です。四肢の健反射は消失あるいは低下します。症状としては手足の脱力や筋力低下が左右対称性に出現し、このため足に力が入らなく、転びやすくなったり、手の脱力のため物をうまくつかめなくなったりします。また、感覚障害により手足のしびれ、ピリピリする痛みなどを認めることもあります。CIDPの原因は現在もなお不明ですが、自己の末梢神経に対する免疫異常がその原因ではないかと考えられています。

数日から約1週で発症する急性炎症性脱髄性多発根神経炎(acute inflammatory demyelinating polyneuropathy: AIDP 別名:ギラン・バレー症候群)に対して、CIDPの発病は急性、亜急性あるいは慢性の時もありますが、経過は2ヶ月以上にわたり緩徐に進行する型(慢性進行型)、再発と寛解を繰り返す型(再発寛解型)があります。

末梢神経を電線に例えますと、脱髄とは銅線を保護するビニールの絶縁体の所々が脱落するような状態です。末梢神経は銅線となる軸索とそれを覆う絶縁体にあたる髄鞘(ミエリン)により構成されていますが、CIDPではこのミエリンが原因不明に障害される疾患(脱髄)です。

慢性炎症性脱髄性多発神経炎、慢性炎症性脱髄性多発根神経炎もいずれも同一疾患で根の有無により疾患は異なりません。また、慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチーと表現される場合がありますが、これらもCIDPです。

2. この病気の患者さんはどのくらいいるのですか

我が国での厳密な疫学調査は行われていませんが、その有病率は人口10万にあたり0.3〜0.5人と推定されています。

3. この病気はどのような人に多いのですか

詳細に検討した報告はありませんが、89例の分析報告では、男女比は62:27で男性に多い傾向があり、2〜70歳まで広い年令層にまたがっています。ギラン・バレ−症候群とは異なり、上気道感染、下痢などの先行感染もみられない場合も多く、発症に関する因子も知られていない。

4. この病気の原因はわかっているのですか

原因はまだはっきりしていません。ギラン・バレ−症候群と同様に自己の末梢神経を攻撃してしまう自己免疫異常がその原因ではないかと考えられています。

血液に末梢神経ミエリン構成成分(蛋白や糖蛋白など)に対する自己抗体が出現したり(液性免疫)、あるいは細胞性免疫などの異常が指摘され、自己免疫異常が関与することは明らかです。

5. この病気は遺伝するのですか

本症が遺伝するとした報告はありません。ヒトの主要組織適合遺伝子複合体であるHLA(human leukocyte antigen)はヒト6番染色体の短腕上に存在する遺伝子領域によりコ−ドされる細胞膜糖蛋白質でクラスⅠ 抗原(HLA-A,-B,-Cなど)、クラスⅡ抗原としてHLA-DR,-DP,-DQ抗原があり、ハプロタイプを形成しています。本症ではHLA抗原などを検討し、HLA-A3,-B7,DR2の頻度が高く、HLA-44,DR-7が低い報告があり、またHLA-DR2 ,-DR7とB44との強い関連性があるなどの指摘がありますが、まだ確定的なことはわかっていません。

6. この病気ではどのような症状がおきますか

脊髄から出て四肢、体幹の筋を支配する末梢運動神経(障害されると四肢の脱力となります)、皮膚、関節などから脊髄へ入る末梢感覚神経(障害されると四肢のしびれ、痛みを認める)が障害されるために、四肢の運動麻痺、感覚麻痺(鈍麻、異常感覚など)がおこります。 
時に脳神経も障害され、舌・咽頭節麻痺、顔面節麻痺、ごく稀に呼吸麻痺がおこることもあります。再発寛解を繰り返し、あるいは慢性進行性に末梢神経が障害され筋萎縮、感覚の脱失も出現します。臨床的にはおおよそ80%が運動障害優位の運動感覚障害型、10%が純粋な運動障害型、10%が感覚障害優位型です。

7. この病気にはどのような治療法がありますか

A 副腎皮質ステロイド療法

この治療法は免疫異常を伴う各種の病気に対して広く行われている治療法です。一般に、副腎皮質ステロイド薬を経口で投与しますが、症状が重い時や急激な発症時には大量ステロイド点滴療法(パルス療法)が行われます。これはメチルプレドニゾロン1,000mgを3〜5日間、点滴静注する治療法です。多くの場合ではパルス治療後に副腎皮質ステロイド薬の経口投与を持続します。無治療の症例に対してステロイド治療の有効性が実証されていますが、治療に反応しない例もあります。
小児に対してのステロイド治療は、副作用に注意しながら長期にわたり減量、維持療法を行なうと良い治療効果が得られます。

B 免疫グロブリン静脈内投与療法

病気の原因として免疫異常が想定される場合に行われる治療法です。一般にIVIg療法といいますが、平成11年6月から保険診療の適応となりました。この治療法は免疫グロブリン400mg/kg/日、5日間、連日点滴静注する治療法です。IVIg療法は血漿交換(plasma exchange: PE、下記を参照)療法に比べ患者様の負担が少なく、比較的安全な治療法で、PE療法と同等の効果が報告され、本邦では簡便さも手伝って、積極的に投与されています。また小児に対しても治療が可能なため、最近では、CIDPに対してIVIg療法を第一選択されている治療法です。

この疾患の場合、1クールの治療法で劇的な効果から無効まで幅広い報告があります。また、1クールのみでなく、毎月3〜5日間施行したほうが良いのか、月に1日のみ施行した方が良いのかについてはまだ結論が出ていません。本疾患の一つのタイプとして多巣性運動ニューロパチー(MMN)がありますが、この疾患はA、C、Dは一般に無効で、IVIg療法が有効な例があります。

IVIg治療を行っても十分な症状の改善を認めない場合、あるいは一旦、神経症状が改善した後に再び増悪する場合では、再度IVIg治療を行います。IVIg治療で治療効果が認められない場合ではパルス療法あるいはPE療法を選択します。

C 血漿交換療法

血液成分の中の血漿に含まれる病気の原因物質を分離、除去し、血液を健常状態に保とうとする治療法です。血漿分離器を用いて血液を血漿成分と血球成分に分け、血漿中に含まれる原因物質(自己抗体)を除きます。特別な医療施設、医療チームを必要としますので、いつでもどこでも出来る治療法ではありません。

体重40Kg以下の小児や高齢者、心、腎疾患を有するヒトでは施行が困難ですが、Bで治療効果があがらない場合はこの治療法を選択することがあります。

D 免疫抑制剤

病気の原因である自己抗体の産生を抑えるための治療法で、他の治療法によっても治療効果が得られない場合において行われる治療法です。免疫抑制剤は単独または他剤と併用し、症状に応じて増減します。

最近ある種の薬剤(タクロリムス、シクロスポリンなど)はCIDPに対して治療効果を認めるとの報告がありますが、一般には他の治療法と組み合わせて用いられることが多い薬です。

8. この病気はどういう経過をたどるのですか

この病気の経過は各種の治療効果に依存することが多いと思います。再発寛解型の方が、慢性進行型よりも予後は良いとされています。1975年の外国の統計では平均7.4年の経過観察した53例では完全回復4%、車椅子以上の悪化が28%と報告されましたが、その後の早期診断、治療法の改善などで、1989年の約3年の経過観察した60例では治療に反応したのは95%と報告されています。副腎皮質ステロイド療法で症状の消失が何年にもわたり持続することが少なくありません。IVIg療法、PE療法の効果が外国で数多く報告され、我が国でも両療法が保険適応となり、多くの患者さんに適用されています。

情報提供者

研究班名神経・筋疾患調査研究班(免疫性神経疾患)
情報見直し日 平成22年2月2日

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