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■概念・定義

ベーチェット病は、1937年トルコのベーチェットによって提唱された疾患で、多臓器侵襲性の難治性の病気である。口腔粘膜のアフタ性潰瘍、皮膚症状、眼のぶどう膜炎、外陰部潰瘍を主症状とし、急性炎症性発作を繰り返すことを特徴とする。

地域的な分布を見てみると、世界的にはシルクロードに沿った帯状の地域に偏っており、日本では北高南低の分布を示す。本症での失明率の高いことや、20歳代後半から40歳代にかけての働き盛りに発病が多いこと、腸管型や血管型、神経型などの特殊型ベーチェット病の死亡が少なからずみられたことから、医学的のみならず、社会的にも注目を集めた。

■疫学

患者数は、1972年には8,000人、1984年には12,700人、1991年には18,300人、以後長らく減少が続いていた。しかし、ここ数年は再び増加傾向にあり、平成20年3月末日現在、特定疾患医療受給者数は17,346人である。かつてはどの施設でもブドウ膜炎の原因疾患として第一位であったが、現在その頻度は減少し、サルコイドーシス、原田氏病に次ぐものとなっている。そのほか、1)発病平均年齢の上昇、2)完全型の減少(29%)と不全型の増加(55.4%)、3)軽症型の女性患者の増加が最近の疫学的な特徴である。

■病因

未だに病因は不明であるが病態形成の機序が明らかになりつつある。ベーチェット病ではHLA-B51の陽性率が高く、発病にHLAーB51そのもの、あるいはこれに連鎖する素因の役割が重視されている。実際、日本人のHLA-B51保有者でも、ベーチェット病に罹患する相対危険率は7.9ときわめて高い。HLAーB51以外にも、HLA-A26ほかMICAなどいくつかの遺伝子多型と疾患の関連が報告されている。こうした遺伝素因に病原微生物をはじめとした外因が関わり、自己免疫異常や好中球機能過剰をはじめとした自然免疫系の異常を引き起こし、発症にいたると考えられている。特に、これまで注目されてきたのは細菌微生物、中でも口腔内に存在する Streptococcus sanguinisの役割が研究されてきた。その研究の過程で、細菌由来の65kd熱ショック蛋白(heat shock protein;HSP)と交差反応性を示す宿主由来HSPが自己抗原となり、自己免疫応答を惹起し、抗原特異的Th1型リンパ球の働きにより炎症病態が発生するという仮説が示された。さらに最近、痛風や家族性地中海熱に代表される自己炎症性疾患との臨床的類似性から、病原微生物などがリンパ球の関与なしに直接的に好中球やマクロファージなどの自然免疫系を刺激する自己炎症のメカニズムがベーチェット病の病態形成により重要ではないかとする考えも提唱されている。また自己免疫的な側面についても新しいサブセットであるTh17型細胞の役割などが検討されている。

■症状

(1)主症状

ア 口腔粘膜の再発生アフタ性潰瘍

境界鮮明な浅い有痛性潰瘍で、口唇粘膜、頬粘膜、舌、さらに歯肉などの口腔粘膜に出現する。ベーチェット病にほぼ必発であり、しかも初発症状のことが多い。国際分類基準では必須の症状であり、日本の診断基準を用いても、その頻度は95%以上である。個々の潰瘍は10日以内に瘢痕を残さずに治癒することが多いが、再発を繰り返すことが特徴的である。

イ 皮膚症状

ベーチェット病の皮膚症状としては、下腿に好発する結節性紅斑、皮下の血栓性静脈炎、顔面、頚部、背部などにみられる毛嚢炎様皮疹又は座瘡様皮疹などが挙げられる。座瘡様皮疹のうち思春期にもみられるもの、副腎皮質ホルモン薬の影響が明らかな場合は、症状にカウントしない。また皮膚の被刺激性亢進を反映する所見として針反応が認められ、剃刀まけなどが生じやすく、採血などの静脈穿刺により皮下の血栓性静脈炎が誘発されることもある。

ウ 眼症状

ぶどう膜炎が主体で、両眼性に侵されることが多い。炎症が前眼部のみに起こる虹彩毛様体炎型と、後眼部におよぶ網膜ぶどう膜炎型(眼底型)に大別される。症状は発作性に生じ、結膜充血、眼痛、視力低下、視野障害などをきたす。再発性前房蓄膿性虹彩炎は、ベーチェット病に特徴的な所見であるが、必ずしも特異的ではない。網膜ぶどう膜炎は視力予後に直接関わり、治療の面で重要である。特に若年発症の男性、HLA-B51陽性者で重篤化しやすいとされている。

エ 外陰部潰瘍

有痛性の境界鮮明なアフタ性潰瘍で、男性では陰嚢、陰茎、女性では大小陰唇に好発する。外観は口腔アフタ性潰瘍に類似するが、口腔粘膜症状ほどの反復はなく、瘢痕を残すこともある。女性の場合は性周期に一致して増悪することがある。

(2)副症状

副症状の出現頻度は関節炎以外は多くないものの、特に腸管型、血管型、神経型ベーチェット病は生命に脅威をもたらしうる警戒すべきものであり、特殊病型に分類されている。

ア 関節炎

四肢の大関節に認められることが多く、腫脹、疼痛、発赤が出現する。関節リウマチのように手指の小関節病変は稀で、変形や硬直を認めることもない。

イ 副睾丸炎

一過性、再発性の睾丸部の腫脹、圧痛がある。出現頻度は6%程度で高くないが、ベーチェット病に特異性の高い症状である。

ウ 消化器病変

腹痛、下血、下痢などが主な症状である。病変の好発部位は回盲部末端から盲腸にかけてであり、打ち抜き型の潰瘍性病変を特徴とし、多発することが多い。このほか食道から直腸にいたるまでどこにでも病変が生じうる。鑑別診断としてクローン病などの炎症性腸疾患が特に問題となる。腸管穿孔、腸管出血など緊急の外科的対応を要することもある。

エ 血管病変

病変は静脈系、動脈系のいずれにも生じる。静脈病変のうち、頻度の高い表在性血栓性静脈炎は皮膚症状に含まれるため、静脈病変として取り上げられるのは深部静脈血栓である。症状としては血栓による還流障害が主体で、上大静脈症候群やBudd-Chiari症候群をきたすこともある。動脈病変としては大動脈はじめ中型から大型の動脈に血栓性閉塞や動脈瘤を形成する。また、肺循環系にも病変は出現し、肺動脈瘤は致命的な喀血の原因となりうる。

オ 中枢神経病変

ベーチェット病の症状の中で最も遅発性で男性に多い。大きく髄膜炎、脳幹脳炎として急性型と片麻痺、小脳症状、錐体路症状など神経症状に認知症などの精神症状をきたす慢性進行型に大別される。また、急性型で発症し、慢性型へ移行する場合もある。MRIでは脳幹部、大脳皮質などに病変を認め、髄液所見では細胞増多、蛋白増加を認める。一般に神経症状は遅発性とされてきたが、最近増加しているシクロスポリン治療に伴う急性型は、比較的発症早期にも出現する。慢性進行型は治療反応性に乏しく、若年で認知症や性格変化をきたし、社会的に問題になることもある。なお、日本では静脈洞血栓症による神経病変は少ない。

■治療

(1)生活指導

全身の休養と保温。バランスのとれた食事内容。ストレスの軽減。口腔内の衛生、齲歯、歯肉炎の治療も重要である。また、神経症状と喫煙の関連も指摘されている。

(2)薬物治療

治療の対象になる病態の重症度及び後遺症を残す可能性の有無により治療の優先順位を決め、治療法を選択する。

(1)眼症状:虹彩毛様体など前眼部に病変がとどまる場合は、発作時に副腎皮質ステロイド点眼薬と虹彩癒着防止のため散瞳薬を用いる。視力予後に直接関わる網膜脈絡膜炎では、急性眼底発作時にステロイドのテノン嚢下注射あるいは全身投与で対処するのに加え、積極的な発作予防が必要で、コルヒチン0.5-1.5mgが第一選択薬である。難治例にはシクロスポリン 5mg/kg程度より開始し、トラフ値は150ng/mlを目安に調整する。2007年1月、世界に先駆けてわが国で、インフリキシマブ(抗腫瘍壊死因子抗体)が難治性眼病変に対して保険適用となった。投与スケジュールは関節リウマチに、投与量はクローン病に準じ、0, 2, 6週に 5mg/kg投与し、以後8週間隔とするのが一般的である。諸外国ではアザチオプリンが繁用されているが、わが国では上記薬剤の副作用出現時など用途は限られている。

(2)皮膚粘膜症状:口腔内アフタ性潰瘍、陰部潰瘍には副腎ステロイド軟膏を局所塗布する。また、内服薬としてはコルヒチン、セファランチン、エイコサペンタエン酸などが効果を示すことがある。結節性紅斑についてはコルヒチンの有用性が証明されている。口腔内、病変局所を清潔にたもつことを指導するのも重要である。

(3)関節炎:コルヒチンが有効とされ、対症的には消炎鎮痛薬も使用する。これらの効果がない場合に副腎皮質ステロイド薬(プレドニゾロン換算10mg程度まで)を用いることもあるが、使用は短期にとどめるべきである。

(4)血管病変:副腎皮質ステロイド薬(0.5-1.0mg/kg)とアザチオプリン(50-100mg)、シクロフォスファミド(50-100mg)、シクロスポリンA(5mg/kg)などの免疫抑制薬の併用を主体とする。また、わが国では深部静脈血栓症をはじめ血管病変に対しては抗凝固療法を併用することが多いが、諸外国では肺出血のリスクを上げるとして、これに異論もある。動脈瘤破裂による出血は緊急手術の適応であるが、血管の手術後に縫合部の仮性動脈瘤の形成などの病変再発率が高く、可能な限り保存的に対処すべきとの意見もある。手術した場合には、術後再発の防止のための免疫抑制療法を十分に行う必要がある。

(5)腸管病変:副腎皮質ステロイド薬(0.5-1.0mg/kg)、スルファサラジン (1500〜2000mg)、メサラジン(1500〜2500mg)、アザチオプリン50-100mg)などを使用する。副腎皮質ステロイド薬は状態をみながら、漸減し、できれば中止とし、長期投与は避けるのが原則である。しかし、実際には難治性でステロイドの離脱に苦慮することも少なくない。最近では、TNF阻害薬の有効性が報告され、その効果に期待が持たれている(保険適応外)。消化管出血、穿孔は手術を要するが、再発率も高く、術後の免疫抑制療法も重要である。

(6)中枢神経病変:脳幹脳炎、髄膜炎などの急性期の炎症にはステロイドパルス療法(メチルプレドニゾロン 1,000mg x 3日間)を含む大量の副腎皮質ステロイド薬(1mg/kg)が使用され、アザチオプリン(50-100mg)、メソトレキサート(10-15mg/wk)、シクロホスファミド点滴静脈注療法(500mg/m2/month)などの併用が試みられる。急性型は比較的、副腎皮質ステロイド薬治療に反応し、改善することが多いが、一部は急性発作を繰り返しながら、慢性進行型に移行する。一方、精神症状、人格変化などが主体とした慢性進行型に有効な治療手段は乏しい。メソトレキサート週一回投与(10-15mg/wk)の有効性が報告され、また、治療抵抗例にはTNF阻害薬も試みられている(保険適応外)。眼病変に使われるシクロスポリンは禁忌とされ、神経症状の出現をみたら中止し、他の治療薬に変更すべきである。

■予後

眼症状や特殊病型がない場合は、慢性的に繰り返し症状が出現するものの一般に予後は悪くない。眼症状のある場合は、特に眼底型の網膜ぶどう膜炎の視力予後は悪く、かつては眼症状発現後2年で視力0.1以下になる率は約40%とされていた。しかし、この数字はシクロスポリン導入以後、20%程度にまで改善した。インフリキシマブの登場により、まだ、長期成績は示されていないものの、さらに大きな改善が期待されている。中枢神経病変、動脈病変、腸管病変等の特殊型ベーチェット病はいろいろな後遺症を残すことがあり、これらの病型に対する治療体系を確立することも重要な課題である。

ベーチェット病に関する調査研究班から

ベーチェット病 研究成果(pdf 49KB)

この疾患に関する調査研究の進捗状況につき、主任研究者よりご回答いただいたものを掲載いたします。

情報提供者

研究班名免疫疾患調査研究班(ベーチェット病)
情報更新日 平成22年2月15日

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