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特発性血栓症とくはつせいけっせんしょう

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■概念・定義

特発性血栓症は,血栓塞栓症の発症が先天性もしくは後天性の血栓塞栓形成素因に起因すると考えられるが、それを特定し得ないものと定義される。血栓塞栓形成素因により血栓塞栓症を多発する病態はthrombophilia (栓友病)とも呼ばれ,これは止血機構の異常により出血症状を呈するhemophilia(血友病)の対義語と理解される。

thrombophilia は1965年にEgebergeにより血栓塞栓症多発家系の病因の検索において、血液凝固制御因子の1つであるアンチトロンビン(AT)[従来アンチトロンビンⅢ/ATⅢと呼ばれていた]の先天性欠損が明らかにされた家系の記載において初めて用いられ、その概念が明らかにされた。血栓塞栓形成素因は、血液凝固系を始めとする血栓形成制御機構関連諸因子の先天性欠損、あるいは本機構の制御限界を超える全身的な血栓形成機転が発動されて発症すると考えられる。(表1)

表1 先天性及び後天性血栓塞栓形成素因

先天性血栓塞栓形成素因 後天性血栓塞栓形成素因
アンチトロンビン欠損(異常)症 抗リン脂質抗体症候群
プロテインC欠損(異常)症 播種性血管内血液凝固症(DIC)
プロテインS欠損(異常)症 血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)
フィブリノゲン異常症 溶血性尿毒症性症候群(HUS)
活性化プロテインC低抗性 高ホモシスチン血症

一方、これらの機序と異なり、種々の血栓症発症の危険因子(表2) により局所病変がもたらされて血栓が発症する。脳血栓,冠動脈血栓など動脈硬化性病変に伴う血栓症は含めないのが本概念を理解する上で妥当であると考える。

表2 血栓塞栓症発症の危険因子及び病態

動脈硬化症 うっ血性心不全 悪性疾患
糖尿病 過粘稠度症候群 ネフローゼ症候群
高脂血症   外傷,妊娠,手術
喫煙 骨髄増殖性疾患 ホモシスチン尿症
血管延 本態性血小板血症  
人工弁,血管置換 発作性夜間血色素尿症 薬剤投与(経口避妊薬など)

■疫学

代表的な先天性血栓塞栓形成素因であるAT欠損症及びプロテインC(PC)欠損症に関し、一般人口における発症頻度はそれぞれ1:2,000〜5,000及び1:1,500(優性型)と報告される。また、若年発症の血栓症の約15%は、これらの疾患ならびにプロテインS(PS)欠損症によると報告される。これらの成績は特発性血栓症の範疇にはいる疾患が少なくないことを推測させる。最近の研究(厚生労働科学研究補助金「血液凝固異常症に関する調査研究」平成18年度報告)によれば日本人の静脈血栓症の遺伝要因としてPSのK196E変異が重要であり、この変異は高頻度(一般日本人の55人に一人がヘテロ接合体)にみられることが判明している。

■病因

血栓塞栓形成制御には、活性化凝固因子に対する血漿阻害因子、血管内皮細胞において産出されるPGI2やトロンボモデュリン(TM)、外因系血液凝固阻害因子(TFPI)など多くの因子が関与すると考えられる。これら諸因子の先天性欠損により抗血栓性が低下し血栓塞栓症が発症すると考えられる。これら諸因子の先天性欠損により抗血栓性が低下し血栓塞栓症が発症すると考えられる。血栓塞栓症発症との関連が推計学的に有意であるとされるものを 表1に先天性血栓塞栓形成素因として挙げた。

ATはトロンビン、活性化凝固第X因子などに対する生理的阻害因子であり、血液凝固制御において重要な役割を果たし、その阻害活性はヘパリンの存在下に著しく促進されることよりヘパリン・コファクターとも呼ばれる。一方、PCは血管内皮細胞上のトロンビン・TM複合体により活性化され、PSを補酵素として活性化凝固第Ⅴ及びⅧ 因子を阻害する。これらの欠損、分子異常症において血栓塞栓症が発症することは、推計学的にも裏付けられ一般的に広く受け入れられている。ある種のフィブリノゲン異常症においては,分子異常のためプラスミンによる溶解作用を受けないため、血栓症が発症すると考えられる。活性化PC低抗性は、近年欧米で明らかにされた先天性素因である。活性化PCの添加による血液凝固時間延長が認められないことより見出され、活性化凝固第V因子の分子異常のため活性化PCの阻害作用を受けないことが原因と考えられる。しかしこの第Ⅴ因子の変異は日本人では認められない。

一方、ヘパリン・コファクターⅡ、プラスミノゲン、ヒスチジン・リッチ・グリコプロテインは血栓形成制御機序に関与し、その欠損症によると考えられる血栓塞栓症が報告されるが、その関連は強いものでなく先天性血栓塞栓形成素因として異論がないわけではない。(表3)また、組織プラスミノゲンアクティベータ欠損症、プラスミノゲン・インヒビ夕ー1(PAT-1)過剰症、組織因子(TF)過剰症、外因系血液凝固阻害因子(TFPI)欠損症などは、これらの諸因子の示す生理作用より血栓症の発症が推測されるが、臨床症例で証明されず確定されていない。

表3 先天性血栓塞栓形成素因と考えられるが血栓塞栓症発症との関連が明確でない、臨床例が報告されないもの

へパリン・コファクターⅡ欠損症
プラスミノゲン欠損(異常)症
ヒスチジン・リッチ・グリコプロテイン過剰症
組織プラスミノゲンアクティベータ欠損症
プラスミノゲン・インヒビター1(PAI‐1)過剰症
組織因子(TF)過剰症
外因系血液凝固阻害因子(TFPI)欠損症

後天性血栓性素因と危険因子との区別は,前述の概念、定義に基づいたものである。抗リン脂質抗体症候群、播種性血管内血液凝固症(DIC)、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)、溶血性尿毒症性症候群(HUS)などにおいては、全身的な血栓形成制御限界を超える要因が作用して血栓形成傾向に誘導されると考えられ、後天性血栓性素因として分類しうる。一方、高脂血症などの危険因子は、血小板あるいは血管壁機能の異常をもたらし、血栓塞栓症の発症素地を形成すると考えられるが、その発症は極めて限局された部位であることより区別して考えるのが妥当である。

特発性血栓症においては、その特徴的な臨床所見により血栓塞栓症形成素因の存在が疑われるが、確定し得ないものである。しかし,血栓形成機序の解明に伴い、今後病因が明らかにされるものと期待される。

■予後

特発性血栓症の発症の背景をなす血栓塞栓形成素因は不均一なものと考えられ、素因により予後も異なるものと考えられる。AT、PC、PSなどの先天性欠損症の予後調査において、動脈ならびに静脈系の複数の血栓症に罹患し、これらが反復することが明らかにされ、抗凝固療法の継続の必要性が認められる。ときに致死的な血栓塞栓症を発症するため、とりわけ誘因の存在するハイリスク期における有効な予防が予後を改善する上で重要である。

血液凝固異常症に関する調査研究班から

特発性血栓症 研究成果(pdf 24KB)

この疾患に関する調査研究の進捗状況につき、主任研究者よりご回答いただいたものを掲載いたします。

情報提供者

研究班名血液系疾患調査研究班(血液凝固異常症)
情報更新日 平成20年5月3日

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