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多発性硬化症たはつせいこうかしょう(公費対象)

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■概念・定義

多発性硬化症multiple sclerosis(MS)は中枢神経系の慢性炎症性脱髄疾患であり、時間的、空間的に多発するのが特徴である。

■疫学

欧米では若年成人を侵す神経疾患の中で最も多い疾患であり、人口10万人当たりの有病率は50前後である。わが国では、有病率(患者数)は10万人あたり1〜5人程度とされていたが、最近の各地での疫学調査や全国臨床疫学調査などによれば、わが国全体で約12,000人、人口10万人あたり8〜9人程度と推定されている。若年成人を侵し再発寛解を繰り返し長期にわたること、視神経や脊髄に比較的強い障害が残りADLが著しく低下する症例が少なからず存在するため、厚生省特定疾患に指定されている。従来本邦では、視神経と脊髄に主たる病巣を有する場合、視神経脊髄型MSと定義されてきたが、本病型の中には、欧米文献で報告のあるneuromyelitis opticaに該当する患者が含まれることが明らかにされつつある。

■病因

その原因はまだ明らかでないが、病巣にはリンパ球やマクロファージの浸潤があり、炎症機序により脱髄が起こると考えられる。HLAクラスII抗原などの遺伝的素因、高緯度などの環境的要因、さらには感染因子に対する曝露などの様々な要因が分子相同性などの機序を介して最終的に自己免疫状態を惹起していると推定されている。MSの動物モデルとされる実験的自己免疫性脳脊髄炎の結果から、中枢神経系ミエリン構成蛋白に対する細胞性免疫のTh1型応答への偏倚がヒトMSでも重要な病因であると考えられている。最近では、同抗原に対する液性免疫応答も重要な役割を担うことが指摘されている。

■発症様式

多発性硬化症の大部分は急性発症し、再発・寛解を示すが、数パーセントは徐々に発病し最初から進行性の経過をとる。また初期には再発・寛解を示す症例でも、後に進行性の経過に転ずるものが見られる。発病や再発の誘因として一定のものはないが、感染症、過労、ストレス、出産後などに比較的多くみられる。

■臨床症状

多発性硬化症に特異的な初発症状はないが、視力障害が比較的多く、球後視神経炎の20%位は多発性硬化症に発展する。

多発性硬化症の全経過中にみられる主たる症状は視力障害、複視、小脳失調、四肢の麻痺(単麻痺、対麻痺、片麻痺)、感覚障害、膀胱直腸障害、歩行障害等であり、病変部位によって異なる。

多発性硬化症の病変は脳室周囲に接して好発し、MRIでとらえることができるが、これらの病変は臨床症状を示さないことが多い。これに対し、第4脳室周囲の病変は、小脳症状や脳幹部の症状を示すことが多く、小脳症状としては躯幹失調、四肢の運動失調、企図振戦を特徴とする。脳幹部の症状としては各種脳神経麻痺、眼球運動障害などが多く、両側性の内側縦束(MLF)症候群は診断的価値がある。延髄の病変では難治性のしゃっくりや呼吸障害を起こすことがあり、特に後者では緊急の処置を必要とする場合がある。

視神経障害では視力の低下、視野の異常、特に視野の中心部が見えにくくなる中心暗点が特徴であり、眼球運動時の痛みを訴えることもある。我が国の多発性硬化症では時に急激に両側性全盲となるなど重篤な視力障害と横断性脊髄炎の症状、すなわち対麻痺と鮮明なレベルを示す感覚障害、そのレベルの帯状感覚障害を示すものがある。このような病態は Devic病として分離して考えられてきた。現在、多発性硬化症の一型である視神経脊髄型MSと欧米文献におけるneuromyelitis opticaとの異同が研究者の間で論議されている。

脊髄障害の回復期に有痛性強直性痙攣 painful tonic spasm を示すことがある。これは自動的あるいは他動的に足を曲げたりする刺激が発作を誘発し、痛みやしびれを伴って一側あるいは両側の下肢が強直発作を示すもので、リハビリに際し四肢を他動的あるいは自動的に動かすことが刺激となって誘発されることがある。発作は数十秒以内におさまる。

神経因性膀胱も多発性硬化症に多く見られる所見で、脊髄障害の初期には麻痺性膀胱による尿閉を起こすことがあり、しばしば導尿を要する。回復期には無抑制性膀胱となり、頻尿と排尿困難あるいは失禁を訴える。

このほか多発性硬化症に特徴的な症状としてUthoff徴候がある。これは体温の上昇に伴って神経障害が悪化し、体温の低下により元に戻るものである。例えば入浴や炎天下の外出により視力が一過性に悪化したり、四肢の筋力が低下したりするなどである。これは脱髄により神経の伝導が低下している条件下で、体温上昇によりKチャンネルが開いて伝導効率がさらに低下することに起因する。風呂やリハビリの部屋の温度はあまり高くしないよう推奨されている。

■検査

一般血液検査、尿、便には合併症がない限り異常はない。髄液は脱髄病巣の炎症を反映し、種々の異常を示す。細胞数は急性期に軽度上昇することが多く、リンパ球が主体である。総蛋白も軽度上昇することが多く、これに対しIgGの上昇の方が著しく、総蛋白に対する比 (IgG ratio) でみるとその異常をとらえやすい。多発性硬化症における髄液 IgGは血液中のものが流入したのではなく、髄液腔で産生されたものが主体である。しかも、その IgGはオリゴクローナルであり、電気泳動によりオリゴクローナルバンドとしてとらえることができる。髄鞘の崩壊を反映してミエリン塩基性蛋白(MBP)が上昇することがあるが、多発性硬化症に特異的ではない。このほか炎症性サイトカイン・ケモカインの上昇が見られる。

脱髄による伝導速度の遅延は各種の誘発脳波でとらえることができる。視覚誘発電位、体性感覚誘発電位、聴性脳幹反応、磁気誘発電位その他の検査法がある。

多発性硬化症の脱髄斑はMRIのT1強調で等信号、T2強調画像で高信号域を示す。T1低信号領域は軸索障害の存在を示唆する。FLAIR画像では脳室は黒く、病巣は白く描出されるので病変と脳室との区別をつけやすい。急性期の病巣はガドリニウムで増強される。病巣は脳室に接して見られるのが多発性硬化症の特徴であり、通常円形又は楕円形をしている。楕円形の病巣の長軸は脳室に対し、垂直であるのが特徴である。これをovoid lesionと呼ぶ。

■治療

多発性硬化症の治療は急性憎悪期の治療、再発防止及び進行防止の治療、急性期及び慢性期の対症療法、リハビリテーションからなる。多発性硬化症の初発時あるいは再発時の急性期にはできるだけ早くステロイド療法を行う。これにはメチルプレドニゾロンなどのステロイド大量点滴静注療法(パルス療法と呼ぶ)が推奨される。これは、同薬を500mgから1000mg、2〜3時間かけて点滴静注するもので、毎日1回、3〜5日間連続して行う。パルス療法後の経口ステロイド薬による後療法を行う場合は、投与が長期にわたらぬよう2週間程度で漸減中止することが望ましい。

今日多発性硬化症の再発を確実に防止する方法はまだない。唯一本邦で認可されているインターフェロンβ(ベタフェロンおよびアボネックス)が再発率を有意に減少させることが二重盲検法で確かめられた。多発性硬化症の再発を促進する因子として知られるストレス、過労、感染症などを回避するよう患者の指導に努める。現在、抗アクアポリン4抗体の意義について、治療に対する反応性という観点から調査が行われつつある。

進行性の多発性硬化症に対してはシクロホスファミドのパルス療法が試みられ、有効であったとの報告がある。シクロホスファミドは強い免疫抑制剤であり、白血球減少、脱毛その他の副作用が強く、厳重な監視下に行われるべきである。 近年、活動性の極めて高い患者にミトキサントロン療法の導入が検討されつつある。

多発性硬化症の急性期、慢性期には種々の対症療法が必要となる。痙縮、神経因性膀胱、有痛性強直性痙攣などがその対象となる。リハビリテーションは多発性硬化症の回復期から慢性期にかけての極めて重要な治療法である。

免疫性神経疾患に関する調査研究班から

多発性硬化症 研究成果(pdf 44KB)

この疾患に関する調査研究の進捗状況につき、主任研究者よりご回答いただいたものを掲載いたします。

この疾患に関する関連リンク

  免疫性神経疾患に関する調査研究班ホームページ

情報提供者

研究班名神経・筋疾患調査研究班(免疫性神経疾患)
情報見直し日 平成20年4月30日

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