瀬川病(平成21年度)

せがわびょう
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1. 概要

14q22.1-22.2に存在するGTPシクロヒドロラーゼ遺伝子異常に起因する常染色体優性遺伝性疾患、黒質線条体ドパミン神 経系終末部のドパミン欠乏による固縮型筋緊張異常によるジストニア姿勢およびジストニア運動を主症状とする。典型例は10歳以下に発症、女性優位の性差を 有する(男:女=1:4)。ジストニア、とくに小児期の姿勢ジストニアは著明な日内変動を呈する。

2. 疫学

70~80

3. 原因

発達早期に活性化するプテリジン代謝の律速酵素GTPシクロヒドロラーゼ1の遺伝子異常による活性低下に起因する。黒質線条体終末 部チロシン水酸化酵素(TH)活性低下がドパミン低下の主因となる。この活性に進行性低下は示さないが、幼児期早期に高活性を示し、年齢とともに指数関数 的に低下、思春期以後、定常状態となる。この経年齢変化に伴い、臨床症状は年齢依存性に増悪するが、20歳代後半には固定する。しかし、遺伝子変異部位に より、線条体へ投射するドパミン神経系の終末部のTH活性が低下する病型(姿勢ジストニア型)と視床下核へ投射する終末部のTH活性が低下する病型(動作 ジストニア型)がある。同様のドパミン欠乏はプテリジン代謝に関連する酵素の欠乏症でも認められるが、動作ジストニア型を示すのは、セピアプテリン還元酵 素欠乏症のみである。これらの酵素異常は、ドパミン刺激伝達障害を来たすが、形態的変化は起こさず、中枢神経系の異常をもたらさない。また、大脳基底核下 降性出力路を介し、脚橋被蓋核を抑制することはない。黒質緻密部のドパミン欠損を起こすことはなく、パーキンソン病の病態は呈さない。本研究ではプテリジ ン代謝異常およびチロシン水酸化酵素異常が発達早期に終末部のドパミンを活性化し、刺激伝達のみを活性化するのか、2つの病型を発現させるのか、経年齢変 化を示すのかを解明する。

4. 症状

姿勢ジストニア型と動作ジストニア型の2型に分けられ、姿勢ジストニア型は、多くは6歳頃、一側下肢内反尖足で発症、15歳頃まで に全肢にひろがり、20歳頃まで筋強剛が進行するが、その後、進行は緩やかになり、30歳以後は定常状態となる。10歳頃から姿勢振戦が認められる。動作 ジストニア型は、これに加え、8歳以後、上肢のジストニア運動、頸部後屈、oculogyric crisisが発現、思春期以後、主に成人年齢で斜頸、書痙を併発する。この病型には運動誘発性ジストニア、むずむず足症候群を呈する症例もある。さら に、成人年齢で斜頸、書痙、または、パーキンソン病様症状で発症する症例がある。しかし、これは真性のパーキンソン病とは異なり、大脳基底核GABA系出 力系の活性低下に起因する高活性型病態を有する。さらに、これらの症例にはすでに発達過程の終わった線条体へ投射するニューロン終末部ドパミン低下に起因 する全身性ジストニア姿勢はみられない。この年齢依存性の発現の機序と神経系の発達における意義も研究の1つとなる。

5. 合併症

終末部のドーパミン欠乏症は、精神発達障害、精神運動障害、痙攣など中枢神経症状を発現せず、ロコモーションも正常に保たれる。大 脳の器質的病変も発現しない。しかし、動作ジストニア型では家系により鬱病を合併することがある。また、早期、主に乳児期発症例ではセロトニン欠乏を発 現、自閉傾向、うつ傾向、強迫神経症、頭痛を併発する例がある。また、筋緊張低下、ロコモーションの障害を来たし、さらに、脚橋被蓋核活性低下を併発、 ドーパミン欠乏も併発、思春期以後、パーキンソン病と同様の病状を呈することが知られている。プテリジン代謝障害によるセロトニン活性低下の疾病発現の機 序、年齢依存性、また、ロコモーションとドパミン神経発達の関係も研究の中に含める。

6. 治療法

L-DOPAが著効を呈し、その効果は副作用なく永続する。しかし、動作ジストニア型では主病変が視床下核のD1受容体の異常にあ るため、D2間接路に作用することにより、L-DOPAで十分な効果が得られない例がある。理論的にはD1作動薬が適剤となる。また、セロトニン欠乏を伴 う症例には、早期からの5ハイドロキシ・トリプトファン、またはテトラヒドロビオプテリンの投与が望まれる。これらの治療法の開発も試みる予定である。

7. 研究班

小児神経伝達物質病の診断基準の作成と患者数の実態調査に関する研究班
ジストニアの治療法の確立・治療指針策定のための調査研究班