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フェニルケトン尿症(指定難病240)

ふぇにるけとんにょうしょう

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

○ 概要
 
1.  概要
フェニルケトン尿症(PKU)に代表とされるフェニルアラニン(Phe)の代謝経路の障害によって引き起こされる疾患群は、先天性アミノ酸代謝異常症の一種である。Pheは必須アミノ酸のひとつで、正常な蛋白合成を営むためには体外から摂取する必要がある。この食事中のPheは蛋白合成に用いられる以外は、主にPhe水酸化酵素(PAH)によりチロシン(Tyr)に変換されTyr代謝経路で分解される。Phe水酸化反応が障害された場合、Pheが蓄積し血中Phe値が上昇し、尿中にはPheのほかその代謝産物のフェニルピルビン酸が大量に排泄されることからPKUと呼ばれている。過剰のPheとともにこれらの代謝産物は正常の代謝を阻害し、新生児・乳児期では脳構築障害による精神発達遅滞を代表とする臨床症状を引き起こすが、成人においてもさまざまな精神症状を引き起こしたり、酸化ストレスの成因となることが示唆されている。
 
2.原因
PAHはPAH遺伝子によりコードされ、PAH遺伝子の異常により酵素活性の低下を引き起こす。さらに、PAHは補酵素としてテトラハイドロビオプテリン(BH4)を利用するため、BH4の合成系あるいは再生系の代謝経路の異常によってもPAH酵素活性が低下する。BH4はPAHの補酵素として利用される以外に、脳内のチロシン水酸化酵素にも利用されるため、BH4の低下は、ドーパの産生低下を生じ、ドーパミン、ノルアドレナリン、アドレナリンの低下を引き起こす。またトリプトファン水酸化酵素の異常によるセロトニンの低下が起こるため、高Phe血症による中枢神経障害だけでなく、神経伝達物質の低下による重篤な中枢神経症状が出現する。わが国で新生児マススクリーニングが開始されてから2011年度までの約30年間に累積で約500人以上の高Phe血症(PKU、BH4反応性高Phe血症、BH4欠損症を含む)が発見さた。発生頻度は約7万人に1例で全国で年間20人前後発見される。
 
3.症状
通常生後数か月から2歳頃までに脳の発達障害を来す。小頭症、てんかん、重度の精神発達遅滞、行動上の問題などの徴候と症状を示す。特有の尿臭(ネズミ尿臭、カビ臭)、赤毛、色白、湿疹がみられることがある。画像所見として脳萎縮、MRIにて白質病変を認めることがある。
 
4.治療法
新生児では早期にPhe投与量を適切に制限して、数日のうちに血中Phe値が10mg/dL以下になるよう治療する。そして血中Phe値が2~4mg/dLまで低下するようにPheの摂取量を調節する。Phe忍容能は症例により異なるので血中Phe値を連日測定しながらPheの摂取量を決定する(具体的には下記のPAH欠損症の治療指針を参照)。このような初期治療は原則として入院して行う。PAH欠損症であることが確定できれば、以下PAH欠損症の治療指針に従って治療をすすめる。BH4欠損症と診断された場合には、神経伝達物質の補充療法が必要となるので注意を要する。
 
 
5.予後
フェニルアラニン値が上昇すると精神症状が不可逆的に進行するため、定期的に知能発達検査(3歳までは津守・稲毛式などの発達指数の検査、3歳以後は知能指数の検査)を行う。また適宜脳波検査と脳の画像検査を行うことが望ましい。食事療法は少なくとも成人になるまで継続すべきであり、一生続けていく必要がある。中学生以降でも可能な限り血中Phe値を10mg/dL以下に維持することが望ましい。患者が女性の場合、妊娠中の高Phe血症は、胎児に、小頭症や心奇形など重篤な影響を与える(マターナルPKU:母性PKU)。これを予防するには、PKU患者が妊娠を希望する場合、受胎前よりPhe制限食を開始し、全妊娠期間を通じて血中Phe値を厳格にコントロールすることが必要である。患者がBH4反応性である場合には、BH4療法が母性PKUに対しても有効と考えられるが、安全性については確立されていない。
 
○ 要件の判定に必要な事項
1.患者数
約500人
2.発病の機構
不明 
3.効果的な治療方法
未確立(食事療法によってPheの摂取を制限し体内のPheとその代謝産物の蓄積を改善させる。)
4.長期の療養
必要(生涯にわたる食事療法が必要である。)
5.診断基準
あり(研究班作成の診断基準。)
6.重症度分類
先天性代謝異常症の重症度評価を用いて、中等症以上を対象とする。
 
○ 情報提供元
「新しい新生児代謝スクリーニング時代に適応した先天代謝異常症の診断基準作成と治療ガイドラインの作成および新たな薬剤開発に向けた調査研究」 
研究代表者 熊本大学生命科学研究部小児科学分野 教授 遠藤文夫
 
 
 
<診断基準>
Definiteを対象とする。
 
①アミノ酸分析(HPLC法)  
血中フェニルアラニン値:2mg/dL(120µmol/L)以上(基準値0.7~1.8mg/dL)
②プテリジン分析:BH4欠損症で異常パターンが見られる。
③DHPR酵素解析:DHPR欠損症ではDHPR活性の著しい活性低下を認める。
④BH4・1回負荷試験:通常、血中Phe値が6mg/dL(360µmol/L)以上の場合に行われる。
BH4 10mg/kgを経口1回投与。負荷前及び負荷後4、8、24時間の血中Phe値を測定。古典型PKUもしくはDHPR欠損症では変化なし。BH4欠損症(DHPR欠損症を除く)では血中Phe値は正常化。BH4反応性高Phe血症で前値より20%以上低下。
⑤遺伝子解析: PAH遺伝子などの責任遺伝子において2アレルに病因となる変異が同定されること。
 
<診断のカテゴリー>
診断の根拠となる①を認めるものを生化学診断例とし、②③を実施し(必要に応じて④⑤を実施)、PAH欠損症、BH4欠損症、BH4反応性高Phe血症のいずれかに病型分類できたものをDefiniteとする。BH4反応性高Phe血症の診断の確認のために、特殊検査④に加えて、乳児期後半にBH4・1週間投与試験にて血中Phe値が投与前より30%以上の低下を確認することが望ましい。
 
 
 
<重症度分類>
中等症以上を対象とする。

 

先天性代謝異常症の重症度評価(日本先天代謝異常学会)

点数

I

薬物などの治療状況(以下の中からいずれか1つを選択する)

a

治療を要しない

b

対症療法のために何らかの薬物を用いた治療を継続している

c

疾患特異的な薬物治療が中断できない

d

急性発作時に呼吸管理、血液浄化を必要とする

II

食事栄養治療の状況(以下の中からいずれか1つを選択する)

a

食事制限など特に必要がない

b

軽度の食事制限あるいは一時的な食事制限が必要である

c

特殊ミルクを継続して使用するなどの中程度の食事療法が必要である

d

特殊ミルクを継続して使用するなどの疾患特異的な負荷の強い(厳格な)食事療法の継続が必要である

e

経管栄養が必要である

III

酵素欠損などの代謝障害に直接関連した検査(画像を含む)の所見(以下の中からいずれか1つを選択する)

a

特に異常を認めない        

b

軽度の異常値が継続している    (目安として正常範囲から1.5SDの逸脱)  

c

中等度以上の異常値が継続している (目安として1.5SDから2.0SDの逸脱)      

d

高度の異常値が持続している    (目安として2.0SD以上の逸脱)

IV

現在の精神運動発達遅滞、神経症状、筋力低下についての評価(以下の中からいずれか1つを選択する)

a

異常を認めない         

b

軽度の障害を認める  (目安として、IQ70未満や補助具などを用いた自立歩行が可能な程度の障害)

c

中程度の障害を認める (目安として、IQ50未満や自立歩行が不可能な程度の障害)   

d

高度の障害を認める  (目安として、IQ35未満やほぼ寝たきりの状態)    

V

現在の臓器障害に関する評価(以下の中からいずれか1つを選択する)

a

肝臓、腎臓、心臓などに機能障害がない

b

肝臓、腎臓、心臓などに軽度機能障害がある
(目安として、それぞれの臓器異常による検査異常を認めるもの)

c

肝臓、腎臓、心臓などに中等度機能障害がある
 (目安として、それぞれの臓器異常による症状を認めるもの)

d

肝臓、腎臓、心臓などに重度機能障害がある、あるいは移植医療が必要である 
(目安として、それぞれの臓器の機能不全を認めるもの)

VI

生活の自立・介助などの状況(以下の中からいずれか1つを選択する)

a

自立した生活が可能     

b

何らかの介助が必要      

c

日常生活の多くで介助が必要  

d

生命維持医療が必要     

総合評価

IからVIまでの各評価及び総点数をもとに最終評価を決定する。

(1)4点の項目が1つでもある場合    

重症

(2)2点以上の項目があり、かつ加点した総点数が6点以上の場合  

重症

(3)加点した総点数が3-6点の場合  

中等症

(4)加点した総点数が0-2点の場合   

軽症

注意

診断と治療についてはガイドラインを参考とすること

疾患特異的な薬物治療はガイドラインに準拠したものとする

疾患特異的な食事栄養治療はガイドラインに準拠したものとする

 
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする。
 

本疾患の関連資料・リンク

日本先天代謝異常学会ホームページ
http://jsimd.net/


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情報提供者
研究班名 先天代謝異常症の生涯にわたる診療支援を目指したガイドラインの作成・改訂および診療体制の整備に向けた調査研究班
研究班名簿  研究班ホームページ 
情報更新日 令和元年6月