脳腱黄色腫症(指定難病263)

のうけんおうしょくしゅしょう
 

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○ 概要
 
1.概要
脳腱黄色腫症(27-ヒドロキシラーゼ欠損症)は、シトクロムP-450(CYP)遺伝子異常によりCYP蛋白である27-ヒドロキシラーゼ(CYP27)活性が低下する常染色体劣性遺伝性疾患である。神経組織や腱組織に蓄積した脂質成分が、コレステロール及びコレスタノール(コレステロールに類似した構造を示す物質)であったことから、先天性ステロール蓄積症であることが同定された。我が国では60例ほどの報告がみられ、20歳以前に多くが発症し、平均年齢が男性40.4歳、女性36.8歳となっている。本症は知能低下・錘体路症状・小脳症状などの進行性神経障害、アキレス腱黄色腫及び若年性白内障、早発性心血管疾患などにより特徴づけられる疾患である。
 
2.原因
CYP27遺伝子異常による欠損からC27-ステロール側鎖の酸化障害がおきると、コレステロールから胆汁酸が合成される経路が障害される。コール酸とCDCAの合成経路に入るが、CYP27欠損のためにCDCA合成が行われず、コレスタノールや胆汁アルコールの過剰産生が起こる。CDCAによるコレステロール分解へのネガティブフィードバックが消失するため、コレスタノール・胆汁アルコールの産生が助長される。
また、27-水酸化コレステロールが、コレステロール逆転送系で重要な機能をもつLXRの内因性リガンドであることから、LXR機能低下によるマクロファージからのコレステロール排出障害の結果、黄色腫や若年性動脈硬化症の一因となっている可能性がある。
 
3.症状
進行性の神経障害(知能低下・錘体路症状・小脳症状など)
皮膚・腱黄色腫
若年性白内障
早発性心血管疾患 
 
4.治療法
胆汁酸プール補充目的にCDCAを投与することで、コレステロール・コレスタノールの産生を抑制しうる。海外の報告では、CDCA長期投与1年後から知能低下、錘体路症状、小脳症状、末梢神経症状などの臨床症状及び脳波異常、CTスキャンでの異常所見の改善を認めたという報告がある。
 
5.予後
進行性の神経障害により若年時より著しくADLが低下する。早発性心血管疾患による心血管死が生命予後を規定する。
 
 
○ 要件の判定に必要な事項
1.  患者数
100人未満 
2.  発病の機構
不明(CYP27遺伝子異常が関与している。)
3.  効果的な治療方法
未確立(CDCA長期投与が有効である可能性が示されている。)
4.  長期の療養
必要(遺伝子異常を背景とし、代謝異常が生涯持続するため。)
5.  診断基準
あり(研究班作成の診断基準。)
6.  重症度分類
modified Rankin Scale(mRS)、食事・栄養、呼吸のそれぞれの評価スケールを用いて、いずれかが3以上を対象とする。
 
○ 情報提供元
「原発性高脂血症に関する調査研究班」
研究代表者 自治医科大学医学部内科学講座内分泌代謝学部門 教授 石橋俊
 
 
<診断基準>
Definite、Probableを対象とする。
脳腱黄色腫症の診断基準
 
A.症状
1.若年発症の白内障
2.思春期以降発症のアキレス腱黄色腫
3.成人期発症の進行性の神経症状
(認知症、精神症状、錐体路症状、小脳症状、痙攣など)
 
B.検査所見
1.血液・生化学的検査所見(Cut Off値を設定)
(1)血清コレスタノール濃度5µg/mL以上、又は血清コレスタノール:コレステロール比0.3%以上
参考…血清コレスタノール濃度正常値2.35±0.73µg/mL
(2)正常~低コレステロール血症
(3)ケノデオキシコール酸低値
(4)胆汁アルコール濃度高値
2.画像所見
頭部MRI T2強調画像での歯状核の高信号
 
C.鑑別診断
以下の疾患を鑑別する。
家族性高コレステロール血症、シトステロール血症、閉塞性胆道疾患、甲状腺機能低下症
 
D.遺伝学的検査
CYP27遺伝子の変異
 
<診断のカテゴリー>
Definite:Aの2項目以上+Bのうち1-(1)を含む2項目以上を満たし、Cの鑑別すべき疾患を除外し、Dを満たすもの。
Probable:Aの2項目以上+Bのうち1-(1)を含む2項目以上を満たし、Cの鑑別すべき疾患を除外したもの。
Possible:Aのうち2項目以上+Bのうち1項目以上。
 
 
 
 
 
 
 
<重症度分類>
○modified Rankin Scale(mRS)、食事・栄養、呼吸のそれぞれの評価スケールを用いて、いずれかが3以上を対
象とする。
 

 

日本版modified Rankin Scale (mRS) 判定基準書

modified Rankin Scale

参考にすべき点

まったく症候がない

自覚症状及び他覚徴候がともにない状態である

症候はあっても明らかな障害はない:
日常の勤めや活動は行える

自覚症状及び他覚徴候はあるが、発症以前から行っていた仕事や活動に制限はない状態である

軽度の障害:
発症以前の活動が全て行えるわけではないが、自分の身の回りのことは介助なしに行える

発症以前から行っていた仕事や活動に制限はあるが、日常生活は自立している状態である

中等度の障害:
何らかの介助を必要とするが、歩行は介助なしに行える

買い物や公共交通機関を利用した外出などには介助を必要とするが、通常歩行、食事、身だしなみの維持、トイレなどには介助を必要としない状態である

中等度から重度の障害:
歩行や身体的要求には介助が必要である

通常歩行、食事、身だしなみの維持、トイレなどには介助を必要とするが、持続的な介護は必要としない状態である

重度の障害:
寝たきり、失禁状態、常に介護と見守りを必要とする

常に誰かの介助を必要とする状態である

死亡

 
日本脳卒中学会版
 
食事・栄養 (N)
0.症候なし。
1.時にむせる、食事動作がぎこちないなどの症候があるが、社会生活・日常生活に支障ない。
2.食物形態の工夫や、食事時の道具の工夫を必要とする。
3.食事・栄養摂取に何らかの介助を要する。
4.補助的な非経口的栄養摂取(経管栄養、中心静脈栄養など)を必要とする。
5.全面的に非経口的栄養摂取に依存している。
 
 
 
呼吸 (R)
0.症候なし。
1.肺活量の低下などの所見はあるが、社会生活・日常生活に支障ない。
2.呼吸障害のために軽度の息切れなどの症状がある。
3.呼吸症状が睡眠の妨げになる、あるいは着替えなどの日常生活動作で息切れが生じる。
4.喀痰の吸引あるいは間欠的な換気補助装置使用が必要。
5.気管切開あるいは継続的な換気補助装置使用が必要。
 
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする。
 

平成27年7月1日

情報提供者
研究班名 原発性脂質異常症に関する調査研究班
研究班名簿 研究班ホームページ
情報更新日 令和4年3月(名簿更新:令和5年6月)