進行性核上性麻痺(指定難病5)

しんこうせいかくじょうせいまひ
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

1. 「進行性核上性麻痺」とはどのような病気ですか

脳の中の大脳 基底核 、脳幹、小脳といった部位の神経細胞が減少し、転びやすくなったり、下の方が見にくい、しゃべりにくい、飲み込みにくいといった症状がみられる疾患です。病気を発症して間もないころはパーキンソン病とよく似た動作緩慢や歩行障害などがみられて区別がつきにくいこともありますが、パーキンソン病治療薬があまり効かず、効いた場合も一時的のことが多く、症状がより早く進む傾向があります。

2. この病気の患者さんはどの位いるのですか

わが国における 有病率 調査では、人口10万人あたり10~20人程度と推測されています。10万人に5.8人程度と報告された1999年の調査に比較すると患者さんの増加がみられます。高齢者の増加や、典型的な症状を示すタイプ以外の病型が明らかになったこと、指定難病に認定されたことから受診が増加したこと、疾患に対する診断方法が進歩したために本症と診断される例が増えたことなどが、有病率が増加した要因と考えられます。

3. この病気はどのような人に多いのですか

40歳以降に発症し、50歳代から70歳代に多く発症します。この病気になりやすい環境要因や生活習慣などはわかっていません。

4. この病気の原因はわかっているのですか

脳内の黒質、中脳、淡蒼球、視床下核、小脳歯状核などの神経細胞が減少し、 神経原線維変化 が出現します。神経細胞内のみでなく、グリア細胞内にも異常構造物が出現し、過剰にリン酸化したタウが蓄積します。このような病変が起こってくる詳しい原因はわかっていません。

5. この病気は遺伝するのですか

遺伝が原因となり発症することは稀と考えられています。

6. この病気ではどのような症状がおきますか

主な臨床症状としては、転びやすい、眼の動きが悪くなり下を見ようとしてもうまくできない、しゃべりにくい、嚥下障害、認知症といった多彩な症状がみられます。

1) 転びやすさと歩行障害・動作障害
転びやすくなったという症状で最初に気づかれることが多い疾患です。半数以上の人は、発症して1年以内に繰り返す転倒がみられます。姿勢が不安定になると共に、危険を察知する力が低下し、注意してもその場になると転倒してしまったりします。バランスを崩したときに手で防御する反応が起きず、顔面や頭部の怪我が多くなります。足がすくんで前に出にくくなったり(すくみ足)、歩行がだんだん速くなって止まれなくなる(加速歩行)といった歩行に関する変化もみられます。一見動かないようにみえて、唐突に立ち上がったりすることもあります。徐々に動作が緩慢になるとともに手足の関節が固くなり、進行すると寝たきりになります。

2) 眼球運動障害
上下、特に下向きの随意的眼球運動(意図的にその方向を見ること)障害が出現し、下方をみることが困難になります。眼球運動障害は初期には明らかでないことも多く、発症して2~3年経た後に出現することも少なくありません。進行すると左右方向にも目を動かしにくくなり、やがて眼球は正中位で固定して動かなくなってきます。

3) 構音障害、 嚥下障害
聞き取りにくい話し方(構音障害)、飲み込みにくくなったりむせたりする( 嚥下 障害)といった症状が徐々に出現します。中期以降には誤嚥性肺炎をしばしば合併します。口からの食物摂取が困難になると、経管栄養や 胃瘻 が必要となります。

4) 認知症
認知症を合併することもありますが、その程度は比較的軽い傾向を示します。判断力は低下しますが、アルツハイマー型認知症と異なり 見当識障害 や物忘れはあっても比較的目立ちません。質問に対してすぐに言葉が出ず、答え始めるまでに時間がかかったりします。病気に対する深刻感が乏しく、多幸的にみえることもあります。

7. この病気にはどのような治療法がありますか

根本的な治療薬はまだありません。
薬物療法として、パーキンソン病治療薬や抗うつ薬が用いられますが、効果はあっても一時的です。
リハビリテーションとして、筋力維持やバランス訓練が行われます。また、手足の関節拘縮を予防するために、リハビリテーションを行います。嚥下体操などの嚥下に対する訓練や、発声訓練などの言語の訓練も行われます。

8. この病気はどういう経過をたどるのですか

歩行障害などが徐々に進行して転倒を頻回に起こし、やがて寝たきりとなります。発症してから寝たきりになるまでの期間は平均で4~5年程度とされますが、患者さんごとに経過が異なります。
臨床症状や経過が、以前考えられていたほど一様ではないことがわかっており、いくつかの臨床的な“亜型”があることが知られています。症状の左右差や手足の震えを認め、眼球運動障害などを初期には示さず、パーキンソン病とよく似た症状や経過をたどって抗パーキンソン病薬の効果もある程度認められる病型があります。この亜型はゆっくり経過し、罹病期間が長くなる傾向があります。また、歩行のすくみ症状が長い期間先行するタイプや、大脳皮質基底核 変性 症/大脳皮質基底核症候群(CBD/CBS)に類似する症状を呈する病型、初期に脊髄小脳変性症と診断されるタイプなど、非典型的な症状・経過を示す亜型も知られるようになってきています。
食物や唾液の誤嚥による肺炎が死因として多くみられます。

9. この病気は日常生活でどのような注意が必要ですか

転倒を予防することが大事です。そばにあるものを取ろうとして手を伸ばした拍子に転んでしまったりします。手を伸ばして取ろうとするような物は片付け、普段使うものは体に近いところにまとめて置くようにします。不安定なものに捉まり体を支えようとして転ぶことがありますので、注意が必要です。トイレに行きたくなって動いて転んでしまうことも多く、余裕を持って早めに排泄するようにします。保護帽などの受傷予防策も必要な場合もあります。具体的な転倒防止対策については転倒防止マニュアル(下記11.のリンク参照)をご参照ください。
嚥下障害の状態に応じて食事形態を変更します。飲み込まないでどんどん口に詰め込んでしまう場合は、声掛けも必要です。水分でむせる場合にはとろみをつけたりします(とろみ剤は薬局で手に入ります)。経口摂取ができなくなったら、経管栄養食を併用したり、経管栄養に切り替えて鼻腔栄養や胃瘻からの栄養補給(腹壁から直接胃の中にチューブを入れる)を行ったりします。
寝たきりになったら、2時間を目安に体の向きを変えて(体位変換)床ずれを防ぎます。また口の中を清潔に保つようにし、適宜痰を吸引(吸痰)して肺炎を予防するようにします。

10. 次の病名はこの病気の別名又はこの病気に含まれる、あるいは深く関連する病名です。 ただし、これらの病気(病名)であっても医療費助成の対象とならないこともありますので、主治医に相談してください。

該当する病名はありません。

11.この病気に関する資料・関連リンク

1) 厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患政策研究事業)神経変性疾患領域における基盤的調査研究班:https://plaza.umin.ac.jp/neurodegen/wp/
2) 厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患政策研究事業)神経変性疾患領域の基盤的調査研究班“進行性核上性麻痺(PSP)診療とケアマニュアル”:http://plaza.umin.ac.jp/neuro2/pdffiles/PSPv4.pdf
3) 精神・神経疾患研究委託費 政策医療ネットワークを基盤にした神経疾患の総合的研究班 転倒・転落研究グループ “自宅でころばないためにー神経疾患患者さんと介護者のための転倒防止マニュアル”:https://higashinagoya.hosp.go.jp/files/000072502.pdf
4) 厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患政策研究事業)神経変性疾患領域の基盤的調査研究班 ”進行性核上性麻痺(PSP)診療ガイドライン2020”:https://minds.jcqhc.or.jp/docs/gl_pdf/G0001256/4/Progressive_supranuclear_palsy_PSP.pdf

 

情報提供者
研究班名 神経変性疾患領域における難病の医療水準の向上や患者のQOL向上に資する研究班
研究班名簿 研究班ホームページ
情報更新日 令和5年11月(名簿更新:令和5年6月)