■おことわり |
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慢性膵炎の新しい臨床診断基準が、厚生労働省難治性膵疾患に関する調査研究班、日本膵臓学会、日本消化器病学会により、2009年に公開されています( http://www.jstage.jst.go.jp/browse/suizo/24/6/_contents/-char/ja/)。 このため、本稿の記載は2009年以前の旧臨床診断基準に基づくものと、新臨床診断基準に基づくものが混在しております点、おことわりいたします。 |
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■定義と分類 |
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定義 |
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膵臓の内部に不規則な線維化,細胞浸潤、実質の脱落,肉芽組織などの慢性変化が生じ、進行すると膵外分泌・内分泌機能の低下を伴う病態である。膵内部の病理組織学的変化は、基本的には膵臓全体に存在するが、病変の程度は不均一で、分布や進行性も様々である。これらの変化は、持続的な炎症やその遺残により生じ、多くは非可逆性である。 慢性膵炎では,腹痛や腹部圧痛などの臨床症状,膵内・外分泌機能不全による臨床症候を伴うものが典型的である。臨床観察期間内で は,無痛性あるいは無症候性の症例も存在し、このような例では,臨床診断基準をより厳密に適用すべきである。慢性膵炎を,成因によってアルコール性と非アルコール性に分類する。自己免疫性膵炎と閉塞性膵炎は,治療により病態や病理所見が改善する事があり、可逆性である点より、現時点では膵の慢性炎症として別個に扱う。 |
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分類 |
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・アルコール性慢性膵炎 |
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■疫学 |
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厚生労働省難治性疾患克服研究事業難治性膵疾患に関する調査研究班による2002年1年間の慢性膵炎推計受療患者数は 45,200人(95%信頼区間35,600~54,700)、年間推計受療数は人口10万人あたり35.5人、2002年1年間の新規慢性膵炎発症患者数は、人口10万人当たり14.4人であった。同じく厚生労働省難治性疾患克服研究事業難治性膵疾患に関する調査研究班による2007年1年間の慢性膵炎推計受療患者数は47,100人(95%信頼区間40,200~54,000人)、年間推計受療数は人口10万人 あたり36.9人、2007年1年間の新規慢性膵炎発症患者数は、15,200人(95%信頼区間12,900~17,600人)、人口10万人あたりの推定新規発症患者数は11.9人であった。それぞれの慢性膵炎の調査で、調査方法や診断基準が異なっているため、単純には比較出来ないが、慢性膵炎の有病患者数は年々増加してきている(図1)。 一方、2002年に実施した自己免疫性膵炎の全国調査で、「自己免疫性膵炎診断基準2002」に合致する自己免疫性膵炎の2002年1年間の推計受療患者数は894人(95%信頼区間:670-1,110人)であるが、「自己免疫性膵炎臨床診断基準2006」に合致する症例は、953例であった。 |
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■成因 |
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2007年の慢性膵炎全国調査によれば、我が国の医療機関を受診した慢性膵炎患者の成因として最も多いのは、アルコール性で 64.8%を占め、次に原因不明の特発性が18.2%、胆石性は2.8%である。男性ではアルコール性が73.0%で最も多く、女性では特発性が40.5%と最も多い。 自己免疫性膵炎は、これまで自己免疫的な機序が関与する慢性膵炎として取り扱われてきた。しかし、ステロイド治療に良好に反応し、病状が可逆的に改善することが、非可逆的な進行を特徴とする慢性膵炎の定義と矛盾することが明らかとなった。このため、2009年に改訂された慢性膵炎臨床診断基準の中では、自己免疫性膵炎は膵の慢性炎症として、慢性膵炎とは別個に取り扱われている。 社会環境の変化、診断法の進歩などにより、アルコール性慢性膵炎が増加し、特発性と胆石性慢性膵炎が減少してきている(図2)。画像診断の進歩により、 原因を特定出来ない特発性膵炎が減少したと考えられる。一方、アルコール性膵炎が増加した原因としては、国民のアルコール消費量や飲酒者数の増加と、本邦の人口構成が変化し、高齢化が進行していることも関与していると考えられる。エタノールに換算して1日150 ml以上飲酒する大酒家は227万人であるが(http://ganjoho.jp/data/public/statistics/backnumber/odjrh3000000h32y-att/data15.pdf)、アルコール性慢性膵炎は30,520人であり(慢性膵炎患者47,100人の64.8%)、大酒家の1.34%に相当するに過ぎない。ところが、大量飲酒が確実である全国の男性断酒会会員7,876名を調査したところ、 718名(17.4%)がアルコール性膵炎の既往があり、大酒家では膵炎の罹患率が高いと言える。 |
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■慢性膵炎の臨床診断基準(膵臓24: 645-708,2009) |
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注2.①,② のいずれも認めず、③~⑥のいずれかのみ2項目以上有する症例のうち、他の疾患が否定されるものを慢性膵炎疑診例とする。 疑診例には3か月以内にEUSを含む画像診断を行うことが望ましい。 注3.③または④の1項目のみ有し早期慢性膵炎の画像所見を示す症例のうち、他の疾患が否定されるものは早期慢性膵炎の疑いがあり、注意深い経過観察が必要である。 付記.早期慢性膵炎の実態については,長期予後を追跡する必要がある。 |
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解説1. USまたはCTによって描出される①膵嚢胞、②膵腫瘤ないし腫大、 および③膵管拡張(内腔が2mmを超え、不整拡張以外)は膵病変の検出指標として重要である。しかし、慢性膵炎の診断指標としては特異性が劣る。従って、 ①②③の所見を認めた場合には画像検査を中心とした各種検査により確定診断に努める。 解説2. 解説3.MRCPについては、 |
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自己免疫性膵炎と閉塞性膵炎は,治療により病態や病理所見が改善する事があり、可逆性である点より、現時点では膵の慢性炎症として別個に扱う。 表1.自己免疫性膵炎臨床診断基準2006(厚生労働省難治性膵疾患に関する調査研究班・日本膵臓学会) 1.膵画像検査で特徴的な主膵管狭細像と膵腫大を認める。2.血液検査で高γグロブリン血症、高IgG血症、高IgG4血症、自己抗体のいずれかを認める。 3.病理組織学的所見として膵にリンパ球、形質細胞を主とする著明な細胞浸潤と線維化を認める。 上記の1を含め2項目以上を満たす症例を自己免疫性膵炎と診断する。但し、膵癌・胆管癌などの悪性疾患を除外することが必要である。 |
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図3. 典型的な自己免疫性膵炎の画像 |
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■病態 |
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慢性膵炎の初期では、膵機能が比較的保たれ、血・尿中の膵酵素上昇を伴う上腹部痛が主症状である。進行すると膵組織が破壊され疼痛は軽減し、血中膵酵素上昇もみられなくなるが、膵外分泌機能低下による消化吸収障害や内分泌機能低下による糖代謝障害が出現する(図4)。 |
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図4. 慢性膵炎の臨床経過 |
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1) 腹痛 |
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慢性膵炎の腹痛は、一般に頑固で、難治性であるが、持続や程度は様々である。疼痛を評価する客観的指標がないし、個々人によって疼痛の閾値が異なることから、疼痛の程度を知ることは困難である。そのうえ、アルコールや鎮痛薬中毒の患者、さらには、これらの依存症の患者に見られる性格異常が腹痛の評価をより困難にしている。 慢性膵炎における腹痛の原因としては、蛋白分解酵素の異所性活性化による自己消化、膵管および膵組織内圧の上昇、あるいは膵内の神経の傷害・変性などの膵内の異常に因るものと、消化性潰瘍や十二指腸狭窄、さらには、消化不良による腸内細菌の過剰出現による鼓腸など慢性膵炎の合併症による膵外の異常に因るものがあり多源性である。 |
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2) 消化吸収障害 |
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慢性膵炎では重炭酸塩分泌が低下することから、上部小腸管腔内pHも低下し、消化酵素が活性化されないし、胆汁酸が沈殿して脂肪 の消化が障害される。消化吸収障害はまず脂質から現れ(脂肪下痢)、次いで蛋白質の消化能の低下がみられるが、糖質の消化吸収障害はほとんど見られない。 |
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3) 糖尿病 |
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慢性膵炎が進行し、膵外分泌組織の線維化が高度になるとランゲルハンス島が破壊され、インスリンを分泌するβ細胞が減少し、糖尿病(膵性糖尿病)が発症する。膵性糖尿病では、インスリンを分泌するβ細胞だけではなく、グルカゴンを分泌するα細胞も減少しており、低血糖を起こしやすく、血糖値が変動しやすい不安定型糖尿病を示すことが多い。アルコール性慢性膵炎、特に飲酒を継続している症例では、膵性糖尿病の発症率が高く、糖尿病合併症の頻度も高い。 |
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■治療 |
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慢性膵炎の成因、病態は複雑であり、病期、病態を的確に把握し、それに応じた適切な治療を行う事が重要である。 |
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1) 疼痛 |
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腹痛に対する対症療法と急性再燃を予防するための日常生活の管理や薬物療法が主体となる。急性増悪時には急性膵炎に準じた治療が必要である。 膵外分泌に対する刺激を減らすために、飲酒や過食などの生活習慣を改善させることが重要で、禁酒・禁煙とし、コーヒーや香辛料は制限する。腹痛が著しい場合には脂肪だけではなく蛋白も制限する。脂肪は症状に応じて30~40g/日、蛋白も0.5~0.8g/kg体重に制限する。急性増悪を繰り返す患者に対しては、食事摂取による疼痛誘発を避けるために1回の食事量を少なくし、1日に4~5回摂取するよう指導する。 疼痛の原因が膵管内圧や膵組織内圧の上昇と膵酵素の異所性(膵組織内)の活性化によると考えられる場合には、膵外分泌の抑制と膵管閉塞因子の除去、さらに、異所性に活性化された膵酵素活性を抑制する。蛋白分解酵素活性の高い消化酵素薬を通常量の3倍以上投与して膵外分泌が刺激されないようにする。抗コリン薬を投与して迷走神経系を介する膵外分泌刺激を抑制することも有効である。Oddi筋を弛緩させ、膵管・胆管内圧を低下させることや、蛋白分解酵素阻害薬で、異所性に活性化された膵酵素を阻害し、膵炎の増悪と進展を防止する。 慢性膵炎の疼痛は長期間持続するため精神的に不安定になったり、心因的要因によって疼痛が惹起されることもあることから、マイナートランキライザーの投与も有効である。 |
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2) 消化吸収障害 |
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通常量の3~4倍の消化酵素薬の補充を行う。消化酵素が胃酸やペプシンで加水分解され失活するのを防止するために食事と一緒に投与し、さらに、消化酵素薬が胃から小腸へ食物と同時に排出されるように直径1mm前後の小顆粒製剤を用いる。慢性膵炎では重炭酸塩分泌が低下しており、上部小腸内のpHが上昇しないことから、ヒスタミンH2受容体拮抗薬やプロトンポンプ阻害薬(PPI)を併用して胃酸分泌を抑制し、消化酵素が失活しないようにする。胃酸分泌の抑制は、慢性膵炎にしばしば合併する消化性潰瘍の疼痛に対しても有効である。 |
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3) 糖尿病 |
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慢性膵炎に合併する糖尿病(膵性糖尿病)は、インスリンを分泌するβ細胞の減少によることから、一般にインスリン治療が必要となる。膵性糖尿病では消化吸収障害も伴っていることが多く、そのような症例では、食後でも血糖の上昇が軽度であることを念頭においておかねばならない。アル コール性慢性膵炎では食生活が不規則であり、しかも肝内グリコーゲン蓄積量が低下しており、低血糖が起きやすいので、血糖を測定しながら必要インスリン量を決める事が重要であり、ややゆるめのコントロールを目標とする。 |
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4) 自己免疫性膵炎の治療 |
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黄疸例では胆道ドレナージを考慮するが、黄疸、胆管狭窄、腹痛等の臨床症状の軽快しない症例に対しては、経口プレドニンの投与を行う。糖尿病合併例では血糖のコントロールを行う。ただし、自己免疫性膵炎の診断がつかない時点で、安易にステロイド治療を行ってはならない。ステロイド 投与による治療的診断を行ってはならない。 経口プレドニン30~40mg/日から投与を開始する。プレドニン初期量を2~4週間投与した後、臨床徴候の改善をみながら、2~3ヶ月を目安に維持量まで漸減する。寛解後は原則的に経口プレドニンの維持療法(目安として2.5~5mg/日)を行う。 ステロイド治療の効果判定および再燃についての経過観察には、血清γグロブリンやIgG、IgG4などの血液生化学検査所見、腹部画像所見、黄疸や腹部不快感などの臨床徴候を参考にする。 |
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■合併症と予後 |
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2002年の慢性膵炎全国調査で集計した慢性膵炎患者957例中365例(38.1%)が糖尿病を合併していた(膵性糖尿病)。 1994年には糖尿病を伴っていなかった慢性膵炎患者418例中121例(28.9%)で8年後の2002年に糖尿病の発症が認められており、慢性膵炎患者では年率約4%で糖尿病が増加すると考えられる。1994年に登録した慢性膵炎患者1,656例を対象に、2002年に転帰調査を行い、予後および死因に関して検討したところ、慢性膵炎患者の標準化死亡比(SMR)は1.55と一般集団に比べ高く、死因別では、悪性新生物によるSMRは2.02(95% 信頼区間:1.67-2.43)と一般集団よりも有意に高率で、特に膵癌のSMRは7.84と著しく高かった(表2)。慢性膵炎は膵癌をはじめ種々の悪性腫瘍を合併する頻度が高く、生命予後が悪い疾患である。 |
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表2. 慢性膵炎の標準化死亡比
1)肝疾患:肝硬変、肝膿瘍、肝不全、硬化性胆管炎含む |
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難治性膵疾患に関する調査研究班から |
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この疾患の実態を把握するために、平成19年に発症した慢性膵炎症例に関する全国疫学調査を実施しております。ご協力のほどお願い致します。 |
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厚生労働省難治性疾患克服研究事業「難治性膵疾患に関する調査研究班」では、わが国における自己免疫性膵炎の実態を把握するために、平成19年症例に関する全国疫学調査を実施しております。この研究についての詳細は東北大学大学院医学系研究科ホームページ上の情報公開(http://www.med.tohoku.ac.jp/public/doc/2009_435.pdf)を御参照下さい。 |
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慢性膵炎
まんせいすいえん
| 研究班名 | 消化器系疾患調査研究班(難治性膵疾患) |
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| 情報更新日 | 平成23年10月26日 |






