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フィッシャー症候群

ふぃっしゃーしょうこうぐん

■概念・定義

フィッシャー症候群は外眼筋麻痺・運動失調・腱反射の低下ないし消失を3徴とする疾患である。多くは呼吸器系あるいは消化器系などの感染に引き続いて発症し、急性期をすぎると病勢は鎮静化して回復に向うという単相性の予後良好な経過をとり、髄液検査で蛋白細胞解離(細胞数が正常であるが蛋白の上昇をみる)がみられるなどの特徴を有しており、これらはギラン・バレー症候群と類似することから同症候群の亜型と考えられている。

■疫学

ギラン・バレー症候群の発症は、報告により異なるが10万人当たり年間l人ないし2人とされており、欧米の文献ではフィッシャー症候群はギラン・バレー症候群の約5%を占めるとされている。一方わが国の「免疫性神経疾患に関する調査研究」班における平成23年度の調査では、ギラン・バレー症候群とフィッシャー症候群を加えたものを母数とするフィッシャー症候群の割合は26%であった。従って、わが国におけるフィッシャー症候群の発症率は欧米よりも高いと考えられる。男性が女性よりもやや多い。

■病因

ギラン・バレー症候群と同じく自己免疫機序によると考えられており、細胞性免疫及び液性免疫のそれぞれの関与を示唆する報告がある。病変部はギラン・バレー症候群と同様に末梢神経(脳神経を含む)と考えられるが、なかには脳幹や小脳に病変の存在が示唆される症例もある。

フィッシャー症候群に特異的にみられ、発症機序への関与の可能性が考えられる所見として、ガングリオシドGQ1bに対する血中IgG抗体の上昇があげられる。ガングリオシドはシアル酸を糖鎖に含む糖脂質であり、神経組織の細胞膜表面に豊富に存在する。その中でGQ1bはシアル酸4個が図1に示すように基本糖鎖に結合した構造をもつが、この糖鎖構造を特異的に認識する抗体が、フィッシャー症候群の急性期に90%以上の高率で上昇しており、経過とともに低下消失していく。以下に抗GQ1b抗体について少し詳しく紹介する。

抗GQ1b抗体は典型的なフィッシャー症候群以外にも、(1)外眼筋麻痺あるいは運動失調とともに四肢の重篤な末梢神経障害による運動麻痺を伴い「外眼筋麻痺や運動失調がギラン・バレー症候群の部分症状として出現している」と考えられる症例、(2)3徴がそろわず外眼筋麻痺のみあるいは運動失調のみを呈する非典型的なフィッシャー症候群、(3)先行感染後に外眼筋麻痺や運動失調を呈し単相性の経過をとるなどフィッシャー症候群の特徴を示しながら中枢神経障害を伴うもの(Bickerstaff脳幹脳炎として報告されることが多い)、などでも高率に上昇している。(2)の非典型例のうち外眼筋麻痺のみを呈するものが運動失調のみを呈するものよりはるかに多い。一方、抗GQ1b抗体はギラン・バレー症候群やフィッシャー症候群とは異なる機序によって外眼筋麻痺や運動失調をきたしている症例では上昇はみられない。また他の神経疾患や自己免疫疾患ではすべて陰性である(図2)。したがって、抗GQ1b抗体はギラン・バレー症候群及びその亜型のフィッシャー症候群による外眼筋麻痺や運動失調に特異的に関連して上昇すると考えることができる。こうしたことから抗GQ1b抗体検査は診断的に極めて有用であるが、同時に膜表面抗原に結合する抗体として病因にもかかわっている可能性が考えられる。急性期に上昇しその後病勢が鎮静化するのに伴い低下消失するという経過も、病態との関連を示唆している。 

 1:3徴のそろったフィッシャー症候群
2:3徴のうち外眼筋麻痺以外のいずれかを欠く非典型的フィッシャー症候群
3:外眼筋麻痺を伴うギラン・バレー症候群
4:外眼筋麻痺を伴わないギラン・バレー症候群
5:他の神経疾患及び自己免疫疾患
6:正常対照
抗GQ1b抗体はフィッシャー症候群やギラン・バレー症候群における外眼
筋麻痺に特異的に関連して上昇する。

抗GQ1b抗体の病因への関与を考える場合、GQ1b抗原の神経系における分布が問題となる。GQ1bは中枢及び末梢神経に化学的には存在が確認されているが、抗GQ1bモノクローナル抗体による免疫組織染色では、眼球運動を支配する3つの脳神経(動眼神経・滑車神経・外転神経)の髄外部分(末梢部分)のランヴィエ絞輪部周囲のミエリンないしシュワン細胞に特異的に強い染色が認められ、これらの部位にGQ1bが高濃度に局在していることが示された。他の脳神経や末梢神経には同様の染色はみられない。ランヴィエ絞輪部及びその周囲は神経伝導に極めて重要な部分であることから、急性期に上昇した抗GQ1b抗体が同部に結合して外眼筋麻痺を特異的に引き起こすという機序が考えられる(図3)。一方マウスの横隔膜を用いた実験で、抗GQ1b抗体が末梢神経からの伝達物質の放出を阻害することが報告され、抗体の作用機序に関連する可能性が指摘されている。また抗GQ1bモノクローナル抗体による、後根神経節大型細胞や筋紡錘内神経終末の免疫染色も報告されており、これらの部位が抗体の標的となって運動失調が引き起こされる可能性も考えられる。

抗GQ1b抗体上昇の機序については、消化器感染を先行感染とする症例で、感染因子であるCampylobacter jejuniの菌体表面にGQ1bと同様の糖鎖構造がみられ、感染因子に対する免疫反応として抗GQ1b抗体が上昇する可能性が示唆された。しかし抗GQ1b抗体陽性例のうち消化器感染が先行するものは少数であり、大部分は呼吸器感染を先行感染としている。それらのうちの一部ではHaemophilus influenzaeの先行感染が報告されているが、大部分の例では特定の先行感染因子は同定されておらず、抗GQ1b抗体の上昇について同様の機序が働いているのか否かは不明である。以上のように抗GQ1b抗体は、フィッシャー症候群(及び外眼筋麻痺や運動失調を伴うギラン・バレー症候群)との特異的な関連や出現率の高さ、急性期にのみみられる点、GQ1b抗原の分布と臨床症状の関連性などから、発症機序において極めて重要な役割を演じていると考えられる。しかし本症候群の病態にはそれ以外の様々な因子(各種サイトカイン等)も関与していると考えられ、病因の完全な解明には今後の検討が必要である。

A:動眼神経、滑車神経、外転神経
眼球運動を支配する脳神経である動眼神経・滑車神経・外転神経の髄外部分には、ランヴィエ絞輪周囲のミエリンないしシュワン細胞にGQ1bが局在しており、そこに抗GQ1b抗体が結合し外眼筋麻痺をきたす。

B:他の脳神経と末梢神経
他の脳神経や末梢神経にはランヴィエ絞輪周囲のGQ1bの局在はなく、抗GQ1b抗体は作用しない。

■治療

フィッシャー症候群は単相性の疾患であり予後良好であることから、典型的な症例の場合は経過観察して改善をまつ場合も多い。しかし、上述のようにギラン・バレー症候群と類似の病態と考えられることから、risk factorのない症例ではプラズマフェレーシスを施行する場合もあり、有効性が報告されている。また免疫グロブリン大量静注も有効である。しかし本症候群の治療法について多数例を対象としたcontrol studyはなく、単相性の経過で回復していく疾患であることから、治療法の評価は難しい。治療法の選択については現時点では各症例ごとに検討する必要があるであろう。なお重篤な四肢の末梢性運動麻痺を伴う場合は、ギラン・バレー症候群の治療に準ずる。とくに抗GQ1b抗体陽性のギラン・バレー症候群は、人工呼吸器が必要となる頻度が陰性例より高いことが報告されており、注意が必要である。

■予後

予後は良好であり、ほとんどの症例は軽快するが、ごく軽度の複視が症状として残存することもある。

免疫性神経疾患に関する調査研究班から


フィッシャー症候群 研究成果(pdf 22KB)

この疾患に関する調査研究の進捗状況につき、主任研究者よりご回答いただいたものを掲載いたします。

この疾患に関する関連リンク


免疫性神経疾患に関する調査研究班ホームページ

情報提供者
研究班名 神経・筋疾患調査研究班(免疫性神経疾患)
研究班名簿  研究班ホームページ 
情報更新日平成24年12月13日