神経系疾患分野|ファ-ル病(特発性両側性大脳基底核・小脳歯状核石灰化症)(平成24年度)

ふぁーるびょう(とくはつせいりょうそくせいだいのうきていかく・しょうのうしじょうかくせっかいかしょう)
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1. 概要

ファール病は大脳基底核(線条体、淡蒼球)、小脳歯状核に石灰化をきたす疾患である。欧米では最近、両側性の大脳基底核に石灰化をきたす疾患としてIdiopathic bilateral ganglionic calcification (IBGC)という呼称が好んで用いられている。脳内に石灰化を来す原因として、一部には副甲状腺機能低下症、ミトコンドリア脳筋症など明らかな症例もあるが、ほとんどは原因不明であった。2012年、家族例と孤発例からⅢ型ナトリウム依存性リン酸トランスポーター2(PiT2)をコードする SLC20A2 の変異が報告された(Wang C et al Nature Genet 44:254-256 2012)。しかし、未だ他の多くの家族例や孤発例は原因不明である。臨床症状も無症状からパーキンソン症状など錐体外路症状、小脳症状、認知症状をきたすなど幅広い。また初老期認知症の中で、ファール病同様の石灰化とともに、病理学的に大脳皮質にびまん性に多数の神経原線維変化を認める疾患が日本から報告されており(NTC=小阪・柴山病(Kosaka K JNNP 57:594-596 1994))、その関係、関連を検討することも今後の課題である。

2. 疫学

これまで本研究班で行ってきた全国規模の収集では約150症例の登録があるが、頭部CT所見から偶発的に見つかった症例も数少ないことから、実際の症例数としてはさらにもっと多いことが推定される。

3. 原因

家族性の症例において、IBGC1(14q13:MGEA6遺伝子のP521A変異)、IBGC2(2q37)として報告された家系があった。2012年2月12日、Nature GeneticsにIBGCの家族例7家系(中国3家系、ブラジル3家系、スペイン1家系)と孤発例と思われる4症例に、Ⅲ型ナトリウム依存性リン酸トランスポーター2(PiT2)をコードする SLC20A2 の変異が見つかり、変異cDNAを導入したアフリカツメガエルの卵母細胞で、リン酸運搬能の異常が証明された。病因にリン酸トランスポーターが関与していることが判明し、ファール病の病態解明へ大きな一歩が踏み出された。

4. 症状

無症状からパーキンソン症状など錐体外路症状、小脳症状、認知症状をきたすなど幅広い。思春期頃見つかる症例が多いが、初老期に見つかった症例では小阪・柴山病との鑑別、関連が問題となるが、従来のファール病の剖検報告例ではその頭部CT上の石灰化の程度は極めて顕著である。また無症状で、偶発的に頭部CT所見から見つかることもある。

5. 合併症

錐体外路症状、小脳症状による転倒、骨折がある。その他特記すべき合併症はない。

6. 治療法

症例によってはパーキンソン症状に対してレボドパが多少有効なこともあるが、未だ有効な薬物治療薬が見出されていない。

7. 研究班

平成22年7月、本邦で始めて研究班が立ち上がった。