HOME >> 診断・治療指針(医療従事者向け) >> PRL分泌異常症(公費対象)

PRL分泌異常症(公費対象)

PRLぶんぴついじょうしょう

■概念・定義

プロラクチンは下垂体前葉から分泌される199個のアミノ酸よりなるペプチドであり,分子内に3個のS-S結合を有する。プロラ クチンの分泌は,他の下垂体前葉ホルモンの分泌と異なって,視床下部のプロラクチン分泌抑制因子(PlF)によって抑制的に調節されている。PlFは主と してドーパミンと考えられる。視床下部に存在する甲状腺ホルモン分泌促進ホルモン(TRH)や血管作動性ペプチド(VlP)はプロラクチン分泌に促進的に 作用する。プロラクチンは乳腺に作用して乳蛋白の合成や乳汁の分泌を促進するのみでなく,ゴナドトロピンの分泌や性腺機能にも影響を与える。

妊娠した女性では妊娠月数の増加に伴って血中プロラクチン値の明らかな増加が認められる。分娩後は数週間以内に正常に復するが,授乳中の血中プロラクチン値は乳頭の吸引刺激によって明らかに増加する。その他の生理的な変動として,睡眠時,ストレス,運動に伴う増加が認められる。

■疫学

下垂体プロラクチンの分泌過剰又は分泌不足による病的状態をいう。プロラクチン分泌過剰症の女性では乳汁漏出−無月経に伴うこと が多いので,乳汁漏出−無月経症候群とも呼ばれる。ヒトにおけるプロラクチンの存在が明らかにされる以前から,これらの症状が分娩後に引き続いて生じた場合にはChiari‐Frommel症候群,下垂体腫瘍に伴う場合はFordes‐Albright症候群,いずれにも属さない特発性の場合は Argonz‐del Castillo 症候群の名で呼ばれてきた。男性にプロラクチン分泌過剰症が生じた場合には乳汁漏出を伴わない場合が多い。

■病因

プロラクチンの過剰分泌は,下垂体プロラクチン分泌細胞の異常,視床下部分泌調節機能の異常のいずれによっても生じる。表1に示したように多くの原因が知られている。

日常最も多いのは種々の薬剤の影響である。下垂体プロラクチンの分泌に抑制的に作用する視床下部ドーパミンの合成,放出,作用を抑制する薬剤はいずれもプ ロラクチン分泌に促進的に作用する。スルピリド,クロルプロマジン,ハロペリドール,パロキセチン, セルトラリン,メトクロプラミド,ドンペリドン,α‐メチルドーパなど多くの中枢神経薬,抗潰瘍剤,降圧剤がプロラクチン分泌に影響する。

下垂体腺腫特に嫌色素性下垂体腺腫の約60%はプロラクチン産生腺腫(プロラクチノーマ)である。先端巨大症においては,成長ホルモン以外にプロラクチン 産生能を有する腫瘍も存在する。非機能性の下垂体腫瘍のトルコ鞍上部進展や下垂体茎圧排,頭蓋咽頭腫,胚細胞腫などの下垂体周辺腫瘍,ランゲルハンス細胞 組織球増加症などの視床下部細胞浸潤など視床下部・下垂体系の器質的な障害に伴うPIFの低下によってもプロラクチン分泌は亢進する。

原発性甲状腺機能低下症の一部に認められるプロラクチン分泌亢進は内因性TRHの分泌過剰に起因すると考えられる。胸部外傷,胸壁帯状疱疹,乳癌などにお いては末梢における求心性神経刺激によってプロラクチン分泌亢進が生じる場合がある。精神疾患の一部にみられるプロラクチン分泌過剰は中枢神経系の機能的変化に伴ってドーパミンの低下,セロトニンなどの促進的な神経伝達物質の増加に基づく可能性が考えられる。腎不全も高プロラクチン血症を伴う。その原因には血中プロラクチン代謝の低下のほかに分泌亢進も関与する。

プロラクチン分泌低下症は,非機能性下垂体腫瘍,Sheehan症候群,下垂体ホルモン複合欠損症や特発的下垂体機能低下症などによって生じる。稀にプロラクチン単独欠損症がある。

表1 プロラクチン分泌過剰症の原因


1.薬物服用(代表的な薬剤を挙げる)
1) 抗潰瘍剤・制吐剤(スルピリド,メトクロプラミド,ドンペリドン等)
2) 降圧剤(α‐メチルドーパ等)
3) 中枢神経薬(スルピリド,クロルプロマジン,ハロペリドール,パロキセチン等)

2.原発性甲状腺機能低下症

3.視床下部・下垂体茎病変
1)機能性
2)器質性
(1)腫瘍(頭蓋咽頭腫・胚細胞腫・非機能性腫瘍など)
(2)炎症 肉芽腫(下垂体炎・サルコイドーシス・ランゲルハンス細胞組織球症など)
(3)血管障害(出血・梗塞)
(4)外傷

4.下垂体病変
1)PRL産生腺腫
2)その他のホルモン産生腺腫

■症状

女性のプロラクチン過剰症では,無月経のほか,月経不順,無排卵性性器出血などの月経異常,乳汁漏出,不妊などが高頻度に認めら れる。男性では下垂体腫瘍や視床下部の器質的病変に伴う頭痛,視カ視野障害,嘔気などが主症状である。しかし詳細な問診によると,性欲低下,性機能低下な どを認める場合が多い。男性において乳汁漏出を呈する症例も存在する。

プロラクチン分泌低下症では分娩後に乳汁分泌が認められない。

■検査

プロラクチン分泌過剰症では,早朝空腹時の基礎血中プロラクチン値を複数回測定して何れも20ng/ml(測定法によっては 30ng/ml)以上である。200ng/ml以上の著しい高値を示す場合にはプロラクチン産生下垂体腺腫の存在が示唆される。微小下垂体腺腫では 30~100ng/mlの基礎血中プロラクチン値を呈する場合も少なくない。視床下部障害や薬物による高プロラクチン血症では200ng/mlを上回るこ とはない。慢性腎不全患者では100~200ng/mlの血中プロラクチン値を示すことがある。

1日24時間にわたり20~30分ごとに採血した血中プロラクチン値は常に高値であり,正常人に認められるような夜間睡眠時の増加は明らかではない。

プロラクチン分泌刺激試験として最も頻用されるTRH(500μg静注)負荷に対する血中プロラクチンの増加反応は下垂体腺腫では障害されていることが多 い。一方,機能性高プロラクチン血症においては,TRH負荷に対する血中プロラクチンの増加反応を認める場合が多い。視床下部障害例においては約半数の症例でTRHに対する反応を欠く。抗ドーパミン剤,スルピリドやドンペリン負荷に対する血中プロラクチンの増加反応は下垂体腺腫や視床下部障害例では通常認められないが,機能性高プロラクチン血症では一般に存在する。しかし腫瘍の大きさ,視床下部障害の程度,期間によって,必ずしも一定したパターンを示さない。微小下垂体腺腫例ではTRHやスルピリドに反応する場合がある。

ドーパミン(2μg/kg/分,120分間)の点滴静注,L‐DOPA(500 mg)経口投与はプロラクチン分泌抑制試験として用いられる。視床下部障害による本症ではドーパミン点滴静注時の血中プロラクチンの低下の程度が強くL- DOPAに対する抑制は軽度な傾向が認められる。しかしながら,以上のような負荷試験によって本症の病因を明らかに鑑別することは困難である。器質的な病変の診断には,頭部X線,CT,‐MRIなどの検査が重要である。特に微小腺腫の診断にはGdを用いた造形MRI検査が有用である。

プロラクチン分泌低下症では基礎血中プロラクチン値は低値で,かつ種々の分泌刺激に対して増加反応を示さない。

■治療

プロラクチン分泌過剰症の治療

原因となる病態によって治療方針は異なる。

1.薬剤服用によるもの
当該薬を中止する。

2.原発性甲状腺機能低下症
甲状腺ホルモン製剤を投与する。

3.視床下部・下垂体茎病変
1)機能性
カベルゴリン、ブロモクリプチンまたは テルグリド を投与する。
2)器質性
各々の疾患の治療を行う。

4.下垂体病変
1)プロラクチン産生腺腫
薬物療法(カベルゴリン、ブロモクリプチンまたは テルグリド)がが基本である。
場合に応じて手術療法を要する。
2)他のホルモン産生腺腫
各々の腺腫の治療を行う。

5.稀な病変
各々の疾患の治療を行う。

■予後

プロラクチン産生下垂体腺腫は一般に良性腫瘍であるが,稀に癌化して転移性の変化を示す。女性では妊娠との関係が重要であり,不妊の原因としての本症の治療成績は良好である。性腺機能低下は骨粗髪症などの老化を加速する原因の1つとも考えられる。機能性高プロラクチン血症では原因疾患によって左右される。プロラクチン産生下垂体腺腫では巨大腫瘍に進展して中枢神経系の圧迫症状や髄液漏などの原因となる場合も認められる。微小腺腫では薬物加療により消失したり,放置されても増大しない例も経験される。

プロラクチン分泌低下症の予後は,基礎疾患によって左右される。

間脳下垂体機能障害に関する調査研究班から


PRL分泌異常症 研究成果(pdf 25KB)

この疾患に関する調査研究の進捗状況につき、主任研究者よりご回答いただいたものを掲載いたします。

この疾患に関する関連リンク


診断と治療の手引き(日本内分泌学会)

   注:「視床下部・下垂体」の中にあります。
情報提供者
研究班名 内分泌系疾患調査研究班(間脳下垂体機能障害)
情報更新日 平成23年2月3日