耳鼻科疾患分野|Pendred症候群(平成24年度)

Pendredしょうこうぐん
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1. 概要

先天性難聴と10才以後に発症する甲状腺腫を合併する常染色体劣性遺伝の疾患である。約80%の症例で内耳に前庭水管拡大という奇形を認め、蝸牛にMondini型という奇形を認める場合も多い。一部の症例では、難聴が先天性ではなく小児期に発症する。難聴は急性増悪を繰り返す変動性、あるいは進行性の場合が多い。甲状腺腫はヨード有機化の不全型障害により約1/3の症例で発症する。甲状腺機能正常の症例が多いが、一部の症例では甲状腺機能低下が認められる。

2. 疫学

約4000人

3. 原因

Pendred症候群の患者のおよそ半数にSLC26A4遺伝子変異が認められ、主要な原因である。残りの半数の患者の原因は現在まだ不明である。日本人では変異の頻度がより高いという報告が近年されているが確定していない。FOXI1遺伝子とKCNJ10遺伝子の変異も原因として少数例であるが報告されている。

4. 症状

先天生あるいは小児期からの両側性高度感音難聴。進行性あるいは変動性の経過を呈する症例も多い。両耳の前庭機能低下による反復性めまい発作、平衡障害。10才以後に発症する甲状腺腫。一部の症例では甲状腺機能低下症を伴う。

5. 合併症

小児難聴の結果としての言語発達の遅れ。平衡障害による運動発達の遅れ。甲状腺腫による外見上の問題としての頚部腫瘤、頚部圧迫による呼吸障害、頚部運動障害、頚部不快感。

6. 治療法

1)難聴に対する治療
A. 慢性の聴覚障害
i.  補聴器 
Pendred症候群は内耳性難聴であるため、ある程度までは高度難聴例でも補聴器の効果が期待できる。

 ii. 人工内耳
補聴器装用しても言語聴取が著しく困難な高度の難聴の場合には人工内耳の適応となる。Pendred症候群に対する人工内耳の効果は正しい適応で行われた場合は多くの場合で良好である。

iii. 言語訓練
先天性難聴の患者が言語獲得するためには、補聴器あるいは人工内耳を装用しての言語訓練が必須である。早期診断(生後6か月以内)された場合に最も効果が高く、診断が遅れると効果が低下する。

B. 難聴の急性増悪
聴覚の悪化の程度により、経過観察、(入院)安静、内耳循環促進薬投与、点滴あるいは経口のステロイド投与、高気圧酸素療法などが行われる。治療により回復する例が多いが、再発率が高い。回復しない場合もある。

2)めまいに対する治療
めまいの程度により、経過観察、(入院)安静、内耳循環促進薬投与、抗めまい薬投与、点滴あるいは経口のステロイド投与などが行われる。治療により回復する例が多いが、再発率が高い。

3)甲状腺腫および甲状腺機能低下症に対する治療
A. 甲状腺腫の場合
ヨード摂取の不足あるいは過剰摂取により発症率が高まるので、食事を注意する。著しく腫大した場合は甲状腺を全摘出し、甲状腺ホルモン剤投与の継続となる。甲状腺腫の増大を抑制するために甲状腺ホルモン投与が継続される場合がある。

B. 甲状腺機能低下症の場合
甲状腺ホルモンの経口投与を継続する。

7. 研究班

「Pendred症候群の治療指針と診療体制モデルの構築」研究班