■概念・定義 |
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ネフローゼ症候群は糸球体性の大量の蛋白尿による低アルブミン血症の結果、浮腫が出現する腎疾患群である。コレステロールの産生増加・分解低下により脂質異常症を合併する。また、低ガンマグロブリン血症も合併する。原疾患により、一次性と二次性に分けられるが、一次性は腎臓糸球体原発の疾患による場合であり、二次性は全身性疾患に続発する場合である。二次性の原因には、糖尿病性腎症、全身性エリテマトーデス、アミロイド―シスなどが代表的なものである。 |
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表1 成人ネフローゼ症候群の診断基準
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1. 上記の尿蛋白量、低アルブミン血症(低蛋白血症)の両所見を認めることが本症候群の診断の必須条件である。 2. 浮腫は本症候群の必須条件でないが、重要な所見である。 3. 脂質異常症は本症候群の必須条件でない。 4. 卵円形脂肪体は本症候群の診断の参考となる。
1. ネフローゼ症候群の診断・治療効果判定は24時間蓄尿により判断すべきであるが、蓄尿ができない場合には、随時尿の尿蛋白/尿クレアチニン比(g/gCr)を使用してもよい。 2. 6か月の時点で完全寛解、不完全寛解I型の判定には、原則として臨床症状および血清蛋白の改善を含める。 3. 再発は完全寛解から、尿蛋白1g/日(1g/gCr)以上、または(2+)以上の尿蛋白が2-3回持続する場合とする。 4. 欧米においては、部分寛解(partial remission)として尿蛋白の50%以上の減少と定義することもあるが、日本の判定基準には含めない。 |
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表3 ネフローゼ症候群の治療反応による分類
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ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群:十分量のステロイドのみで治療して1か月後の判定で完全寛解または不完全寛解I型に至らない場合とする。 難治性ネフローゼ症候群:ステロイドと免疫抑制薬を含む種々の治療を6ヶ月行っても、完全寛解または不完全寛解I型に至らない場合とする。 ステロイド依存性ネフローゼ症候群:ステロイドを減量または中止後再発を2回以上繰り返すため、ステロイドを中止できない場合とする。 頻回再発型ネフローゼ症候群:6か月間に2回以上再発する場合とする。 長期治療依存型ネフローゼ症候群:2年間以上継続してステロイド、免疫抑制薬等で治療されている場合とする。 |
■疫学
1) 難治性ネフローゼ症候群の発症数
新規発症のネフローゼ症候群は年間3756-4578例と推定され、平成20年の新規発症の難治性ネフローゼ症候群は1000-1200症例と推定されている。2) ネフローゼ症候群の病型
ネフローゼ症候群全体の病型分類では,膜性腎症が27.1%,微小糸球体変化(微小変化型ネフローゼ症候群)24.8%,メサンギウム増殖性糸球体腎炎9.3%,巣状分節性糸球体硬化症7.6%,膜性増殖性糸球体腎炎(Ⅰ型,Ⅲ型)6.1%,半月体形成性壊死性2.3%であった。さらに二次性を除いた一次性糸球体疾患732例の病型分類では,微小糸球体変化(微小変化型ネフローゼ症候群)が38.7%,膜性腎症37.8%,巣状分節性糸球体硬化症11.1%,膜性増殖性糸球体腎炎(Ⅰ型,Ⅲ型)6.6%,メサンギウム増殖性糸球体腎炎2.9%,半月体形成性壊死性糸球体腎炎1.4%であった。
■病因
ネフローゼ症候群の原因は糸球体上皮細胞(ポドサイト)の傷害である。糸球体上皮細胞が遺伝的原因、リンパ球由来の液性因子、あるいは抗原抗体複合物などにより障害されることにより、足突起の癒合をおこして、糸球体基底膜からのアルブミンの透過性が亢進する。■症状
1.浮腫
血清アルブミン値が減少するため、膠質浸透圧が低下し、水が組織間へ移行することと、遠位尿細管でのナトリウム再吸収が亢進するため、浮腫が起こる。
2.脂質異常症
ネフローゼ症候群では、総コレステロール、LDLコレステロール、中性脂肪が上昇しており、これらの原因にはHMG-CoA還元酵素の合成亢進が関係している。また、apoB-100の合成も亢進している。一方、レシチン・コレステロール・アシルトランスフェラーゼ(LCAT)が尿中に排泄され、遊離コレステロールのエステル化が低下しており、HDLの代謝異常が起こり、HDL-3がHDL-2に比して増加している。リポ蛋白リパーゼの活性低下も見られ、カイロミクロンやVLDLが上昇している。
3.凝固能亢進
肝臓での凝固因子の産生が亢進している。また、アンチトロンビンIIIの尿中への喪失があるため、トロンビン作用が亢進している。
4.易感染性
ネフローゼ症候群では免疫グロブリンや補体成分の低下が見られるため、液性免疫低下が潜在的に存在する。T細胞系の免疫抑制などによる細胞性免疫低下も見られ、さらに易感染性が助長され、ネフローゼ症候群自体が感染症発症のリスク因子となることが知られている。
5. 急性腎障害
低アルブミン血症に伴う有効循環血漿量(血管内血漿容量)の低下は、急性腎前性腎不全の誘因であり、蛋白尿が多い症例ほど急性腎不全の合併が多く、さらに高齢者は潜在的な急性腎不全のハイリスク群である。
■治療
治療はネフローゼの症候である、浮腫に対する対症療法と、糸球体疾患に対する根本的な治療である副腎皮質ステロイド・免疫抑制薬による治療がある。
一次性ネフローゼ症候群のうち、微小変化型、巣状分節性糸球体硬化症、膜性腎症の治療に関しては平成22年度進行性腎障害に関する調査研究班が作成した治療のアルゴリズムがある。
1 微小変化型ネフローゼ症候群
初期治療
プレドニゾロン0.8~1 mg/kg/日 (最大60 mg) で開始し、寛解後1~2週間持続する。完全寛解後は2~4週毎に5~10 mg/日ずつ漸減する。5~10 mgに達したら再発をきたさない最小量で1~2年程度維持し、漸減中止する。
4週後に完全寛解に至らない場合は初回腎生検組織の再評価を行い、必要ならば再生検も考慮する。
再発時の治療
プレドニゾロン20~30 mg/日もしくは初期投与量を投与する。
頻回再発型、ステロイド依存性、ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群
免疫抑制薬 (シクロスポリン 1.5~3.0 mg/kg/日、またはミゾリビン 150 mg/日、または、シクロホスファミド 50~100 mg/日など) を追加投与する。
補助療法として
1. 必要に応じて、HMG-CoA還元酵素阻害薬や抗凝固薬を使用する。
高血圧を呈する症例ではアンジオテンシン変換酵素阻害薬やアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬の使用を考慮する。
2.巣状分節性糸球体硬化症
初期治療
プレドニゾロン(PSL)1㎎/kg/日(最大60mg/日)相当を初期投与量としてステロイド治療を行う。重症例ではステロイドパルス療法も考慮される。寛解導入後は微小変化型ネフローゼ症候群に順じて減量する。ステロイド抵抗性
4週以上の治療にもかかわらず、完全寛解あるいは不完全寛解Ⅰ型(尿蛋白1g/日未満)に至らない場合はステロイド抵抗性として以下の治療を考慮する。1) 必要に応じてステロイドパルス療法3日間1クールを3クールまで行う。
2) 免疫抑制療法として、シクロスポリン 2.0~3.0 mg/kg/日、またはミゾリビン 150 mg/日、または、シクロホスファミド 50~100 mg/日の併用を考慮する。
補助療法
1. 高血圧を呈する症例では積極的に降圧薬を使用する。とくに第一選択薬としてアンジオテンシン変換酵素阻害薬やアンジオテンシン受容体拮抗薬の使用を考慮する。2. 脂質異常症に対してHMG-CoA還元酵素阻害薬やエゼチミブの投与を考慮する。
3. 高LDLコレステロール血症を伴う難治性ネフローゼ症候群に対してはLDLアフェレシス(3ヵ月間に12回以内)を考慮する。
必要に応じ、蛋白尿減少効果と血栓症予防を期待して抗凝固薬や抗血小板薬を併用する。
図2 巣状分節性糸球体硬化症の治療のアルゴリズム
3.膜性腎症
初期治療
プレドニゾロン(PSL)0.6~0.8㎎/kg /日相当を投与する。ステロイド抵抗性
ステロイドで4週以上治療しても、完全寛解あるいは不完全寛解Ⅰ型(尿蛋白1g/日未満)に至らない場合はステロイド抵抗性として免疫抑制薬、シクロスポリン2.0~3.0 mg/kg/日、またはミゾリビン 150 mg/日、またはシクロホスファミド 50~100 mg/日の併用を考慮する。補助療法
1)高血圧を呈する症例ではアンジオテンシン変換酵素阻害薬やアンジオテンシン受容体拮抗薬の使用を考慮する。2) 脂質異常症に対して、HMG-CoA還元酵素阻害薬やエゼチミブの投与を考慮する。
3)蛋白尿減少効果と血栓症予防を期待して抗血小板薬や抗凝固薬を併用する。ジピリダモールはステロイド抵抗性ネフローゼ症候群に適用がある。動静脈血栓形成の恐れに対してはワルファリンを考慮する。
図3 膜性腎症の治療のアルゴリズム
■予後
予後は原疾患によって異なる。ネフローゼ症候群の予後に関しては全国の85医療施設へのアンケート調査で、昭和50年から平成5年に発症した成人の膜性腎症と巣状分節性糸球体硬化症の腎生存率(末期腎不全に至らない割合)が報告されている。
膜性腎症1008例の腎生存率(透析非導入率)は10年で89%、15年で80%、20年で59 %である。膜性腎症の長期予後は不良である。
巣状分節性糸球体硬化症278例の腎生存率(透析非導入率)は10年で85.3%、15年で60.1%、20年で33.5%と長期予後は膜性腎症よりも不良である。





