■概要 |
||||
|
視神経は中枢神経であり末梢神経のような再生はないとされる。したがってその疾病である視神経症は概して難治性であり,すべての視神経疾患がここに属する可能性がある。特に特発性視神経炎,虚血性視神経症,外傷性視神経症,レーベル病を含む遺伝性視神経症,中毒性視神経症,梅毒性視神経炎,一部の腫瘍性視神経症はいずれも発症機序が十分明確でなく,また決定的な効果的な治療法に乏しく,中途視覚障害の重要な原因となっている。小児に稀にみられる原因不明の視神経萎縮は疾患範疇として分類不能であるが難治である。以下,順を追って主な疾患の概要を示す。 |
||||
〔特発性視神経炎〕 |
||||
■定義 |
||||
|
特発性視神経炎は急性の片眼又は両眼性の視カ低下がみられ,他の原因が除外され,また多発性硬化症の初発もしくは部分症としてみられることのある,視神経の脱髄が推定される原因不明の視神経炎である。 |
||||
■疫学 |
||||
|
視神経炎治療多施設トライアル研究グループの調査によると,日本では人口10万人に対し年約1.0人(成人人口10万対1.6人)の本症の発症があり,10歳代から50歳代までの間に多く,女性にやや好発する。両眼性は28%に,再発例は19%にそれぞれみられる。比較的高い発症を示すのは栃木,東京,神奈川,兵庫,和歌山,岡山,山口,鳥取,愛媛,福岡の各都県である。なお小児では視神経乳頭炎を示す例が多い。 |
||||
■病因 |
||||
|
真の原因は不明。視神経の脱髄が推定され,一部は多発性硬化症と同様,ウイルス感染などが契機となって,髄鞘蛋白や脂質などに対する抗体が発現し,これを介した免疫機序が,動物実験などで推定されている。しかし,実際には多発性硬化症に移行しない例の方が多い。また,systemic lupus erythematosus(SLE)に視神経症が合併することが知られているが,一部の原因不明の視神経症ではSLEとは診断できなくとも,これに類似した自己免疫性血管症に起因するものと考えるグループもある(自己免疫性視神経症と呼称される)。恐らく特発性視神経炎は単一疾患でなく,したがって機序も同一でないと推定される。 |
||||
■治療 |
||||
|
初発の視神経炎は80%以上が治療の有無によらず改善傾向をみる。米国の多施設研究によれば,メチルプレドニゾロンのパルス療法(適用外使用)は初期の改善速度を上げるが,半年後以降は偽薬治療群との間で次第に視機能差がなくなる。ステロイド剤経口投与は再発率を上げるという。日本人の視神経炎は米国に比し多発性硬化症への移行が明らかに少ないという種族差があるが,本邦での多施設研究の結果は、米国での結果と一致していた。ビタミンC大量療法(適用外使用)を試みた研究もある。 |
||||
■予後 |
||||
|
10~20%は十分な視カ回復がみられず,おおむね5~10%は0.1以下にとどまる。再発は20~25%にみられるというが,再発を繰り返すにつれて,また高年齢発症者については回復程度が明らかに低下する。 |
||||
| ▲このページの上部へ戻る | ||||
〔虚血性視神経症〕 |
||||
■定義 |
||||
|
視神経への栄養血管の循環障害(虚血)により視機能低下が生じたもの。 |
||||
■疫学 |
||||
|
血管障害の起こりやすい高齢者(一般に55歳以上)に多いことが各種疫学調査で知られているが,小乳頭などの乳頭異形成や片頭痛を有する人では若年でも発症するとの報告が増えている。また,非動脈炎性は動脈炎性の10倍以上多い。 |
||||
■病因 |
||||
|
動脈炎性と非動脈炎性に分けられ,前者では巨細胞性動脈炎,後者では高血圧,動脈硬化,糖尿病や心疾患,血液疾患などが基盤にある。当該動脈に循環障害が起きた結果と考えられるが,臨床例では側頭動脈を生検する場合を除き直接当該動脈を検索する方法が乏しいため詳細な機序は不明。 |
||||
■治療 |
||||
|
巨細胞動脈炎ではステロイド剤が絶対適応であるが,ステロイド依存性になることが多く,減量あるいは中止すると再発することが多いので,副作用との関係で治療は困難である。非動脈炎性では効果的な治療法はなく,原因疾患のコントロールが主体となる。一時視神経鞘減荷手術の効果が期待されたが米国の多施設研究で否定的な結果が出た。 |
||||
■予後 |
||||
|
動脈炎性では早期にステロイド剤を用いることによりある程度失明を予防できるが,再発しやすい。非動脈炎性では多少の自然回復傾向を示す例があるが,多くは重篤な視カ,視野障害を残す。 |
||||
| ▲このページの上部へ戻る | ||||
〔外傷性視神経症〕 |
||||
■定義 |
||||
|
視神経管への介達打撃や同部位の骨折による外傷性視神経症(視束管骨析,視神経管骨折)である。なお稀に眼窩内や視神経が眼球より出る部位での傷害例もある。 |
||||
■病因 |
||||
|
視神経への直接的障害が明らかな極く稀な例を除いては、原因は不明である。従来は視神経管骨折が原因と考えられたが、骨折の合併例は必ずしも多くは無い。視神経管内視神経の特徴的構造より、特に眉毛部外側への衝撃が介達性に視神経管部に到達した際、当該部に浮腫が生ずるとの考えもある。 |
||||
■治療 |
||||
|
ステロイド剤大量点滴を高浸透圧剤とともに行う治療法(適用外使用)と視神経管開放手術が従来から行われているが,いずれの有効性,優位性とも結論的でない。受傷直後にメチルプレドニゾロン超大量療法(適用外使用)を行うことが近年試みられている。 |
||||
■予後 |
||||
|
多少の自然回復傾向をみるが,光覚弁のないものでは大部分回復しない。 |
||||
| ▲このページの上部へ戻る | ||||
〔遺伝性視神経症〕 |
||||
|
種々のものがあり,いずれも難治である。比較的多いものとしてはレ一ベル病(レーベル遺伝性視神経症)と優性遺伝性若年性視神経萎縮症がある。 |
||||
A レーベル病 |
||||
■定義 |
||||
|
青年ないし中年の男性に多く,片眼又は両眼の比較的急激な視カ低下で始まる視神経症で,母系遺伝を示し同一家系内発症が証明されることがある。 |
||||
■疫学 |
||||
|
日本では井街の大規模な家系調査が1973年に発表されている。その後の諸報告から推定すると,現在350~400家系が確認されていると考えられる。 |
||||
■病因 |
||||
|
ミトコンドリアDNAの塩基配列に点突然変異が発見され,これまでに確実に疾患に関係ありとされるのは,11,778、 3,460,14,484番目の塩基の点変異である。更に9,804,15,257番などまだ異論はあるが1次変異の可能性を指摘されているものがある。日本では大半が11,778変異を有した症例である。発症のきっかけにタバコ,糖尿病,アルコール,頭部外傷などの報告があり,筆者は特発性視神経炎が発症の契機となった症例を複数経験している。 |
||||
■治療 |
||||
|
coenzymeQ剤などが試みられる(適用外使用)が,特異的効果的治療法はない。 |
||||
■予後 |
||||
|
11,778変異の大部分は両眼とも0.1以下にとどまる。稀に若干の回復をみるものが報告されているが,11,778変異では極めて稀である。 |
||||
B 優性遺伝性若年性視神経萎縮症 |
||||
■定義 |
||||
|
10歳未満で発症する優性遺伝性視神経症である。初期には視カ低下のほかに第3色覚異常様の色覚異常を示し,乳頭の耳側から次第に退色するのが臨床的特徴である。 |
||||
■疫学 |
||||
|
日本では二十数家系確認されている。男女差はない。 |
||||
■治療 |
||||
|
なし |
||||
■予後 |
||||
|
視カ低下は緩徐であり,0.2~0.3以上の視カを保持する例が多いが,高齢になると視力低下が更に進行する例があるようである。 |
||||
| ▲このページの上部へ戻る | ||||
〔中毒性視神経症〕 |
||||
■定義 |
||||
|
治療薬,化学物質などによる急性,慢性の視神経症をいい,通常両眼性である。 |
||||
■病因 |
||||
|
視神経症を惹起しうる薬物,化学物質には種々のものがあり,また末同定のものも少なくないと考えられるが,既に知られている主なものを表1に掲げる。ただしそれらの薬物が視神経障害を起こす機序は不明のものが多い。ニューロンを直接障害するものと,循環障害を介して障害を起こすものとがあると思われる。 |
||||
|
表1 視神経症を惹起する主な薬物
|
||||
■治療 |
||||
|
急性期には当該薬物から離れることが重要。補助的にグルタチオン製剤,ビタミン剤(適応外使用)などの投与が行われる。なお有機リン剤など抗コリンエステラーゼ剤中毒ではアトロピンやプラリドキシム(PAM)が用いられる。 |
||||
■予後 |
||||
|
早期発見,早期治療を行えばある程度の回復が期待できる。 |
||||
| ▲このページの上部へ戻る | ||||
〔梅毒性視神経症〕 |
||||
■定義 |
||||
|
通常梅毒の2期以降の時期に視神経障害が起こったものを総称する。 |
||||
■病因 |
||||
|
梅毒(Treponema pallidum)によるが,病型は視神経周囲炎(通常片眼性で乳頭浮腫を示す),進行性の両眼性視神経萎縮(髄膜炎を伴うもの,二次的虚血が原因と思われるものなど症例により色々の機序が推定される),ぶどう膜炎を伴うものなど種々のものがある。 |
||||
■治療 |
||||
|
駆梅療法を行う。これに加えてステロイド療法が奏効したとの報告があるが,無効例も多い。 |
||||
■予後 |
||||
|
視カ改善例の報告はあるが,視神経姜縮が始まっている例では視カ予後は一般に不長。 |
||||
| ▲このページの上部へ戻る | ||||
〔腫瘍性視神経症〕 |
||||
■定義 |
||||
|
眼窩内又は頭蓋内(トルコ鞍付近)における腫瘍性病変が原因で視神経障害を起こしたもの。 |
||||
■予後 |
||||
|
特に視神経膠腫,視神経鞘髄膜腫は視神経自体に発生する腫瘍で失明原因となる。このほかの腫瘍性病変でも外科的手術後の視機能後遺障害は難治である。更にうっ血乳頭を示した頭蓋内腫瘍の中に外科的手術後もうっ血乳頭が改善せず,進行性視カ障害を示し失明に至るものもある。 |
||||
| ▲このページの上部へ戻る | ||||
網膜脈絡膜・視神経萎縮症に関する調査研究班から |
||||
|
HOME >> 診断・治療指針(医療従事者向け) >> 難治性視神経症
難治性視神経症
なんちせいししんけいしょう
| 研究班名 | 視覚系疾患調査研究班(網膜脈絡膜・視神経萎縮症) |
|---|---|
| 情報見直し日 | 平成23年10月24日 |




