脊髄空洞症(指定難病117)

せきずいくうどうしょう
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

○ 概要
 
1.概要
脊髄内に空洞(syrinx)が形成され、小脳症状、下位脳神経症状、上下肢の筋力低下、温痛覚障害、自律神経障害、側弯症など多彩な神経症状、全身症状を呈する疾患であり、種々の原因で発症する。
 
2.原因
キアリ(Chiari)I型奇形、種々のdysraphism(脊椎ひれつ)を伴うもの、繋留脊髄、頭蓋頸椎移行部の骨奇形など、外傷後の脊髄空洞症、癒着性脊髄くも膜炎に続発するものなどがある。なお、髄内腫瘍に伴うものは、腫瘍組織に伴う嚢胞として、脳脊髄液の循環動態の異常を基盤とする空洞症と区別されている。
 
3.症状
空洞のある脊髄領域の温痛覚を含めた表在感覚障害がある一方、振動覚や関節位置覚が保持され(解離性感覚障害)、左右差があるのが特徴である。その他に自律神経症状、空洞が拡大すると錐体路徴候、後索の障害もみられるようになる。
 
4.治療法
内科的薬物療法、理学療法、外科的に大孔部減圧術、空洞-くも膜下腔短絡術などの手術が行われる。対症的治療としての手術療法は一定程度確立しており、手術療法により臨床症状が寛解する症例もある。しかし、根治療法ではないので、脊髄内の空洞は完全には消失せず残存する例がある。手術療法後も後遺症により継続的な治療を必要とする症例も存在する。
 
5.予後
治療により寛解が得られる場合もあるが、継続的な治療が必要な場合もある。
 
○ 要件の判定に必要な事項
1.  患者数
約3,000人
2.  発病の機構
不明
3.  効果的な治療方法
未確立(対症的治療は確立しているが、根治療法はない。)
4.  長期の療養
必要(治療により寛解が得られた場合には不要であるが、継続的な療養な場合もある。)
5.  診断基準
あり(神経変性疾患に関する調査研究班)
6.  重症度分類
modified Rankin Scale(mRS)、食事・栄養、呼吸のそれぞれの評価スケールを用いて、いずれかが3以上を対象とする。
 
○ 情報提供元
「神経変性疾患領域における基盤的調査研究班」
研究代表者 国立病院機構松江医療センター 院長 中島健二
 
 
<診断基準>
脊髄空洞症の診断基準において、症候性脊髄空洞症と診断された場合を対象とする。ただし、無症候性脊髄空洞症及び続発性脊髄空洞症を除く。
 
I.診察所見
緩徐に発病し、以下の症候から少なくとも1項目を認める。
1)片側若しくは両側上肢又は頸部や体幹の感覚障害
2)片側又は両側上肢の筋力低下及び萎縮
3)足底反射異常を伴う痙性又は弛緩性対麻痺
4)ホルネル(Horner)症候、瞳孔不同、発汗障害、爪の発育障害、起立性低血圧、神経原性関節症、患側の手足の肥大などの自律神経障害
5)ホルネル(Horner)症候、瞳孔不同、眼振、顔面感覚の低下、舌の萎縮及び線維束性収縮、嚥下困難、嗄声、胸鎖乳突筋萎縮などの脳神経症候
6)側弯症
 
II.神経放射線所見
空洞の証明は必須事項とする。
1)MRIで脊髄内に偏在性あるいは中心性の空洞を認める(隔壁様構造物はあってもよい。)。体内金属等によってMRI検査が施行できない場合には、水溶性造影剤によるCTミエログラフィーにより空洞を確認できる。
2)キアリ(Chiari)奇形、頭蓋頸椎移行部の骨奇形、脊柱側弯などを伴うことが多い。
 
注1)空洞症のMRI所見
  T1強調画像で辺縁が明瞭な髄液と同じ信号強度を示す髄内占拠病変が上下数節にわたり存在することをもって、脊髄空洞症と診断する。この際、胎生期中心管遺残は除外する。
 
注2)キアリ(Chiari)奇形の定義
1型:小脳扁桃が大後頭孔より3mm以上下垂し、原則として小脳扁桃の変形を生じているもの。延髄の下垂を伴ってもよい。
2型:小脳下部(主に虫部)と延髄が大後頭孔より下垂し、第4脳室も下垂する。原則として腰仙部に脊髄瘤又は脊髄髄膜瘤を伴う。
 
III.鑑別診断
以下の疾患が除外されていること
 1)脳幹部・高位脊髄腫瘍
2)環軸椎脱臼
3)頸椎椎間板ヘルニア
4)加齢に伴う変形性脊椎症や靱帯骨化症による脊髄症及び脊髄根症
5)運動ニューロン疾患
6)若年性一側性上肢筋萎縮症(平山病)
7)特発性側弯症
 
IV.参考所見
1)空洞形成の急激な進行に先立って、脊髄の腫大と浮腫を伴うpresyrinx stateと称される状態がある。
2)既往に難産あるいは分娩時外傷がみられることがある。
3)一部に家族歴をみることがある。
4)時に進行停止例や自然緩解例がある。
5)外傷や癒着性くも膜炎などに続発する場合がある。
6)髄内腫瘍に伴うものは腫瘍嚢胞(Tumor cyst)とし、空洞とはしない。
 
V.診断のカテゴリー
A)症候による分類
1)症候性脊髄空洞症
上記I、II-1)、IIIの全てを満たす脊髄空洞症
2)無症候性脊髄空洞症
検査で偶然に見つかった脊髄空洞症で、II-1)とIIIを満たすもの
B)成因による分類
1)キアリ(Chiari)奇形1型を伴う脊髄空洞症
2)キアリ(Chiari)奇形2型に伴う脊髄空洞症
a)開放性二分脊椎(脊髄髄膜瘤又は脊髄破裂)
b)潜在性二分脊椎(脊髄脂肪腫、緊張性終糸、割髄症、皮膚洞、髄膜瘤、
脊髄囊胞瘤などを含む。)
   c)上記二分脊椎を伴わないもの
 
       3)頭蓋頸椎移行部病変や脊椎において骨・脊髄の奇形を伴い、キアリ(Chiari)奇形を
欠く脊髄空洞症
4)癒着性くも膜炎に続発した脊髄空洞症
5)外傷に続発した脊髄空洞症
6)その他の続発性脊髄空洞症
7)上記のいずれにも該当しない特発性脊髄空洞症

4)5)6)を続発性脊髄空洞症とする。
 
 
<重症度分類>
modified Rankin Scale(mRS)、食事・栄養、呼吸のそれぞれの評価スケールを用いて、いずれかが
3以上を対象とする。
 

日本版modified Rankin Scale(mRS)判定基準書

modified Rankin Scale

参考にすべき点

全く症候がない

自覚症状及び他覚徴候が共にない状態である

症候はあっても明らかな障害はない:
日常の勤めや活動は行える

自覚症状及び他覚徴候はあるが、発症以前から行っていた仕事や活動に制限はない状態である

軽度の障害:
発症以前の活動が全て行えるわけではないが、自分の身の回りのことは介助なしに行える

発症以前から行っていた仕事や活動に制限はあるが、日常生活は自立している状態である

中等度の障害:
何らかの介助を必要とするが、歩行は介助なしに行える

買い物や公共交通機関を利用した外出などには介助を必要とするが、通常歩行、食事、身だしなみの維持、トイレなどには介助を必要としない状態である

中等度から重度の障害:
歩行や身体的要求には介助が必要である

通常歩行、食事、身だしなみの維持、トイレなどには介助を必要とするが、持続的な介護は必要としない状態である

重度の障害:
寝たきり、失禁状態、常に介護と見守りを必要とする

常に誰かの介助を必要とする状態である

死亡

 
日本脳卒中学会版
 
食事・栄養(N)
0. 症候なし。
1. 時にむせる、食事動作がぎこちないなどの症候があるが、社会生活・日常生活に支障ない。
2. 食物形態の工夫や、食事時の道具の工夫を必要とする。
3. 食事・栄養摂取に何らかの介助を要する。
4. 補助的な非経口的栄養摂取(経管栄養、中心静脈栄養など)を必要とする。
5. 全面的に非経口的栄養摂取に依存している。
呼吸(R)
0. 症候なし。
1. 肺活量の低下などの所見はあるが、社会生活・日常生活に支障ない。
2. 呼吸障害のために軽度の息切れなどの症状がある。
3. 呼吸症状が睡眠の妨げになる、あるいは着替えなどの日常生活動作で息切れが生じる。
4. 喀痰の吸引あるいは間欠的な換気補助装置使用が必要。
5. 気管切開あるいは継続的な換気補助装置使用が必要。
 
 
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続す
ることが必要なものについては、医療費助成の対象とする。

平成27年7月1日

情報提供者
研究班名 神経変性疾患領域における難病の医療水準の向上や患者のQOL向上に資する研究班
研究班名簿 研究班ホームページ
情報更新日 令和3年9月(名簿更新:令和5年6月)