神経系分野|Rett症候群(レット症候群)(平成23年度)

れっとしょうこうぐん
研究班名簿 一覧へ戻る

1. 概要

レット症候群は、1966年Andreas Rett(ウィーンの小児神経科医)により初めて報告された疾患である。本症は神経系を主体とした特異な発達障害である。初発症状は乳児期早期に外界への反応の欠如、筋緊張低下であるが、それらの症状が軽微なため異常に気付かないことが多い。乳児期後半以後、手の常同運動を主体とする特徴的な症状が年齢依存性に出現する。治療法は現時点では対症療法のみである。原因遺伝子はMethyl-CpG-binding protein2 遺伝子 (MECP2)である。MECP2の基礎的研究が進められているが、レット症候群の病態解明までには至っていない。

2. 疫学

1011人(推定値)、有病率0.008%(20歳以下女性)

3. 原因

1999年、本症の原因遺伝子としてXq28に連鎖するMethyl-CpG-binding protein2 遺伝子 (MECP2)がみつかった。その後、臨床的典型例において、レット症候群の80-90%にMECP2の変異がみられることが分かった。一方、レット症候群の数%を占める非典型例ではCDKL5、FOXG1の変異がみつかっている。

4. 症状

本症の発症は乳児期早期にあり、睡眠、筋緊張の異常、姿勢運動の異常、ジストニア、側彎、情動異常、知的障害、てんかんなどの症状が年齢依存性に出現することを特徴とする。                        
”おとなしく、よく眠る、手のかからない子”と表現される如く日中の睡眠時間が長く、外界からの刺激に対する反応に欠けることが特徴である。これらの症状は通常見逃され、”当初乳児期早期は正常”とされることが多い。
乳児期には抗重力筋の緊張低下があり、そのため運動発達は寝返りから遅れることが多い。特に四つ這い移動の遅れ、または出来ないことが多い。四つ這いの姿勢は屈曲肢位で交互性に欠ける。独歩も遅れることが多く、生涯不能の例もある。
乳児期後半にそれまで獲得した手の機能の消失と特異的な手の常同運動が出現する。
乳児期には姿勢ジストニアが出現してくる。小児期以後から出現する側彎はジストニアによると考えられている。
発症早期の情動異常は自閉症との類似性があり、乳児期後半から知的障害が前面に出現し、最重度の知的障害を呈することが多い。また。頭囲の拡大は乳児期後半より停滞し、幼児期には小頭を呈することが多い。
てんかん発作、特異な呼吸を呈してくることもある。本例は特異な発達障害であり、中高年・老人の症例もみられる。
小児期から思春期にかけて、突然死の発生も知られている。

5. 合併症

進行した重症児では、日常的に合併症(感染症、誤涎性肺炎など)の注意が必要である。食物摂取が上手に出来ないため、るい痩が顕著となり胃ろう造設を余儀なくさせられることもある。吐気症を呈し、稀であるが消化管の破裂をきたすこともある。稀に小児期より胆石の合併もある。
特に自分で症状、痛みなどを訴えることが出来ないため、周囲の注意が不可欠である。
骨の発達も悪く、骨折にも注意を要する。

6. 治療法

現在、根本的治療法がないため、治療は対症療法である。例えばてんかんがある場合は抗てんかん薬の投与などである。本症の重要な病態であるロコモーション障害やジストニアに対する理学療法、また、手の常同運動に対して病態に沿った適切な上肢機能の指導なども必要である。情緒面の問題、知的障害に対す種々の工夫、療育等も重要である。
常同運動、異常呼吸に対して薬剤療法も試みられてきているが、有効なものは無い。
側彎が進行した場合、側彎矯正の手術が行われることがある。

7. 研究班

厚生労働省厚生労働科学研究難治性疾患克服研究事業「レット症候群の診断と予防・治療法確立のための臨床および生物科学の集学的研究」班