特定疾患患者の生活の質(Quality of life, QOL)の向上に関する研究

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1. 生活の質(Quality of Life, QOL)とは

世界保健機関(WHO)では、「文化や価値観により規定され、その個人の目標、期待、基準および心配事に関連づけられた、生活状況に関する個人個人の知覚であり、その人の身体的健康、心理状態、依存性レベル、社会関係、個人的信条、および周りの環境の特徴とそれらとの関係性を複雑に含んだ広い範囲の概念である。この定義はQOLが文化的、社会的、環境的な文脈に組み込まれた個人の主観的な評価として参照されるものであるという観点を反映している。単に“健康状態”、“生活様式”、“生活の満足”、“精神状態”、“幸福状態”と等価ではなく、それら以外の生活側面をも含む多次元的概念。」(中島孝訳)と説明しています。人は本来、尊厳(Dignity of Life, Sanctity of Life)を持って生きている、ということがケアをおこなう前提なのですが、これを「測定」することはできません。これに代わりうるものとして、心理学的な意味で本人がその時に知覚したものがQOLで、ケアの指標・評価の対象であると考えています。

2. 特定疾患、特に神経難病におけるQOLとは

神経難病など重篤で難治性の病気では、疾患自体を治療し症状を改善することを目標にするのは現時点では困難です。これらの疾患においては、原疾患(もとになっている難病)の治療よりもQOLを向上させることが重要であると考えています。

今までのQOL測定には、身体の機能評価が含まれています。このようなQOL尺度は、治療効果の研究や医療費に対する効用を分析する研究に使われています。しかし難病ケアに対して、そのケアが適切であるか、あるいは効率のよいものであるかといった評価には使えません。新しいQOL評価法が必要です。従来のQOL評価法と異なって、原疾患の進行に伴なって身体機能が低下しても、患者さん自身の価値観・人生観の変化(「ナラティブの書き換え」と言います)に対応可能な評価方法として、SEIQoL-DW (生活の質ドメインを直接的に重み付けする個人の生活の質評価法 Schedule for the Evaluation of Individual Quality of Life-Direct Weighting)を邦訳し、有用性を検討しています。

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3. QOL向上にむかって

ALSなどの難病では、病気を診断し告知がおこなわれる時点から緩和ケアが始まっています。緩和ケアは患者さんにとって基本的なケアで、いかなる終末期にも必要な積極的トータルケアと考えており、経内視鏡的胃瘻造設(PEG)や人工呼吸器療法をおこなうか、おこなわないかという選択とは無関係です。

わが国では、「緩和ケア」とは治療法が無い患者さんの終末期における苦痛のコントロールであり、また尊厳死や消極的安楽死であると誤解されていることも多いように思われます。本来の緩和ケアとは、根治療法に反応しなくなった患者さんに対して、機能的サポートと心理サポートを組み合わせ可能な限りのQOL向上を目指すものです。

この考え方に基づいて、心理サポートを含んだ総合的な神経難病リハビリテーションの臨床的な有効性検討、難病のケアモデル化を検討しました。またALSなど神経難病患者さんでは、コミュニケーション障害が呼吸障害や嚥下障害と並んで重要な障害であるとの考えから、携帯性のある意思伝達装置の開発をおこないました。

遺伝性難病ではハンチントン病を対象にして、心理的分析と臨床症状の特徴と経過を把握するための、UHDRS(Unified Huntington’s Disease Rating Scale)という評価法を翻訳しました。遺伝性の神経難病患者さんのQOL向上をめざし、遺伝子検査臨床ガイドラインの作成も計画しています。

4. 主な研究成果

1)筋萎縮性側索硬化症の緩和ケア(Palliative Care in Amyotrophic Lateral Sclerosis, Oxford University Press, 2000)を研究班で翻訳出版(西村書店、2005年印刷中)

2)ハンチントン病の評価スケール、UHDRS (Unified Huntington’s Disease Rating Scale)を翻訳

3)難病患者などホームヘルパー養成研修テキスト出版、第6版、社会保険出版社

4)SEIQoL-DW の翻訳版の作成(H15年度報告書、大生定義および中島孝監訳)

5)ALSなど神経難病患者のコミュニケーション障害について携帯性のある意思伝達装置の開発評価。ファンコム株式会社製レッツチャット:関連特許出願中(出願番号 2003-017890)

情報提供者
研究班名特定疾患患者の生活の質(Quality of life,QOL)の向上に関する研究班
情報更新日平成17年7月31日