特定疾患の微生物学的原因究明に関する研究

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目的

多くの原因不明の疾患は遺伝子の変異、または、感染症で引き起こされると想定されている。難病の発症にも微生物感染の関与が示唆されているが、特定の病原体と疾患との明確な関連性は殆ど証明されていない。当研究班では、難病の原因や増悪因子となる病原性微生物を明らかにすることにより、難病の発症予防あるいは効果的な治療法の開発に寄与することを目的としている。

対象疾患と課題

炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎やクローン病など)の増悪因子としての微生物の関与、中枢神経系に潜伏するボルナ病ウイルスやヘルペスウイルスと神経疾患(パーキンソン病やアルツハイマー病など)の発症との関連、原発性肺高血圧症と血管炎症候群における真菌の関与、劇症肝炎やIgA腎症等において微生物そのものや微生物由来の物質を見いだすことを課題としている。

研究成果の概要

(1)重症の潰瘍性大腸炎患者さんの手術(pouch作成手術)において、経口抗菌薬投与による手術部位感染予防効果を明らかにした。(2)ボルナ病ウイルスを検出する方法を構築して、パーキンソン病やアルツハイマー病の脳においては、ボルナ病ウイルスが検出されることを明らかにした。さらに、ボルナ病ウイルスの遺伝子が宿主の遺伝子に組み込まれることを証明し、ボルナ病ウイルスの神経病原性を明らかにするために解析を行っている。(3)ヒトヘルペスウイルスが慢性疲労に関与することを動物レベルで明らかにし、神経疾患で治療が必要なうつ症状の原因の一つである可能性を示した。(4)原発性肺高血圧症の原因は不明であるが、ヒト居住環境から分離された真菌が原発性肺高血圧と同等の血管病変を動物で形成させることに成功した。このモデルはヒトの肺高血圧症に類似した病態を示すことも明らかにした。(5)拡張型心筋症の発症要因として、微生物やレトロトランスポゾンの関与を示唆する成果をえた。(6)微生物の構成成分の一つである糖タンパクの糖構造の違いが、血管炎症候群と類似の血管病変形成と関連することを動物レベルで明らかにした。その他の疾患についても、研究を推進している。