神経皮膚症候群に関する調査研究

一覧へ戻る

神経皮膚症候群調査研究班は神経と皮膚に病変を来たす遺伝性の4疾患を対象に調査・研究しています。神経線維腫1型(レックリングハウゼン病)、神経線維腫症2型、結節性硬化症(プリングル病)、色素性乾皮症の4疾患です。いずれも神経系や皮膚に病変を生じますが、原因遺伝子が異なり、また症状や治療法も異なる別の病気です。いずれの病気も患者さんごとに様々なヴァリエーションの症状がでます。軽症から重症まで患者さん間に症状の差が大きいといえます。

研究班の主な活動は(1)疫学調査を通じてわが国の患者数、病気と患者さんの状況の把握、(2)病因・病態の研究、(3)治療・ケア方法の開発・改良です。(1)~(3)がうまく連携して動くことが重要です。疫学調査は我が国の患者数を神経線維腫症1型が約4万人、同2型患者が4千人以下、結節性硬化症が1万3千人、色素性乾皮症が1,500人と推定しています。神経線維腫症1型や結節性硬化症では患者さんがどのように生活されているか、どのように診療されているかなどきめ細かく調査しています。

これら4疾患の原因遺伝子(NF1、NF2、TSC1とTSC2、XP(A~G)とDNAポリメラーゼ)が解明されていますが、遺伝子と細胞レベルでの異常、臨床症状との関係について精力的に研究を進めています。例えば神経線維腫症1型に出現する神経線維腫ができるメカニズムについてです。肥満細胞や血管増殖因子など多数の因子が考えられますが、最近上皮→間葉転換が促進して神経線維腫が形成される可能性が示唆されています。このように腫瘍・病変形成のメカニズムが明らかになるにつれ、病変形成に働く主な分子を抑える、その働きを止める薬剤を開発すれば治療が可能です。神経皮膚症候群の治療にそれぞれの病変形成に応じた分子標的治療を応用できる日が近づきつつあるように思っています。

しかし分子標的治療はまだ研究段階です。現在は従来の各種治療の改良とともに新しい対症療法の開発に努めています。新たな治療の進歩は研究班の治療指針にまとめています。神経線維腫症1型の神経線維腫や骨病変、同2型の腫瘍切除と内耳インプラント、結節性硬化症の血管線維腫などに新しい治療法が、また色素性乾皮症の中枢神経病変に薬物治療も試みられています。研究班の施設など限られ、どこでもできる治療法ではありませんが、順次標準化されてゆくと思います。

なお、遺伝子診断は神経線維腫症、結節性硬化症ではほとんどなされません。遺伝子の変異と病気の程度や状態が必ずしも関連しないこと、遺伝子変異の検出率が十分に高くないこと、変異の検出が簡便にできないことなどが原因です。大学病院など一定の病院で臨床的診断、検査を受けるようお勧めします。色素性乾皮症は病型が原因遺伝子と密接に関連し、臨床症状とも相関しますので、できるだけ遺伝子診断をきちんと受けていただいたほうがよいように思います。その上で遮光対策をきちんとするのが病気の進展を防ぐ一番の方法と考えています。

神経皮膚症候群の神経線維腫症1型、2型、結節性硬化症は弧発例の多い常染色体優性、色素性乾皮症は常染色体劣性の遺伝病です。研究・診療の進展により日常生活や社会生活を円滑に送る様々な工夫がなされています。病気の性質と自分の状態をよく把握していただき、いたずらに悲観することなくお過ごしくださるようお願いします。