免疫性神経疾患に関する調査研究

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1. 研究班の紹介

免疫とは、外来の病原体などに対して自分を守るためのシステムです。しかし何らかの原因で、このシステムが自分自身を標的として攻撃する場合があり、「自己免疫」と呼ばれます。脳・脊髄・末梢神経(神経筋接合部を含む)に対する自己免疫による病気が免疫性神経疾患です。この研究班では、多発性硬化症、重症筋無力症、ギラン・バレー症候群、フィッシャー症候群、慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)、多巣性運動ニューロパチー、クロウ・フカセ症候群、HTLV-1関連脊髄症(HAM)の8つの免疫性神経疾患の病態と治療について研究しています。

2. これまでの主な研究成果の概要

多発性硬化症はわが国では欧米と比べて数の少ない疾患ですが、欧米と比較すると視神経と脊髄の症状を主体とする例が多いことがわかりました。また近年では、視神経脊髄型の多発性硬化症の多くは視神経脊髄炎(NMO)という特殊な病態であることがわかり、NMOではアクアポリン4という物質に対する抗体が重要な役割を果たすこと、NMOと通常の多発性硬化症では適切な治療法も異なることなどが明らかになってきました。

重症筋無力症の大多数は神経筋接合部のアセチルコリン受容体に対する抗体により起こりますが、その抗体が陰性の例があります。最近、陰性例の中にMuSKという物質に対する抗体がみられる例があり、症状や治療への反応に特徴があることがわかりました。

ギラン・バレー症候群では、5-6割の例で細胞膜の成分であるガングリオシドに対する抗体がみられることがわかりました。ガングリオシドにはいくつもの種類があり、どのガングリオシドに対する抗体が陽性かによって、症状や経過に違いがあること、ある種の抗体は病気を起こす働きをもつことが明らかになりました。フィッシャー症候群はギラン・バレー症候群の類縁疾患ですが、GQ1bというガングリオシドに対する抗体がほとんどの例で上昇することが見つけられました。

クロウ・フカセ症候群で血中にVEGFという物質が増加することが見出されました。

HTLV-1というウィルスによる特殊な脊髄症であるHAMが見出されました。

3. 研究班としてトピックス的な話題など

NMOのさらに詳細な病態が明らかになってきました。多発性硬化症には多数の新規治療法導入の試みがあります。ギラン・バレー症候群では2種類のガングリオシドが作るガングリオシド複合体に対する抗体があることがわかってきました。多発性硬化症と重症筋無力症に加えて、2009年の10月からCIDPが特定疾患治療研究事業の対象となりました。クロウ・フカセ症候群では自己末梢血幹細胞移植を伴う大量化学療法やサリドマイド療法などの新しい治療の開発がすすめられています。2009年度からHAMが本研究班の対象疾患となりました。